Model-1
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―――その日の昼過ぎ、
フィガロ城に参内して、
エドガーの妻であるセリスの肖像画作成に没頭している画家に対し、
国王であるエドガーは画家が昼食後の休憩の時間を見計らってわざわざ自室に呼んで労っていた。
現在 セリスは
“エドガー選定"の官能的なデザインのドレスを身につけ自らの寝室で画家と正対した形でモデル役に徹している。
この画家はエドガー王の治世当初から王室の出入りを許されていて、
フィガロでは指折りの腕前を持っている。
今までも何度かエドガーや重臣達の肖像を描くために城に上がったことはあったが、
エドガーの王妃となった
セリスをモデルに絵を描くのも 面と向かって顔を会わすのも
今回が初めてとなっていたのだった。
「・・・で、絵の方はいつ頃に仕上がりそうかな」
「本日下書きの半分近くが出来上がりました。
あとは夕方までに下書きについてメドをつけて、
明日以降には逐次色付けに取りかかりたいと思っております 」
画家の答えに、エドガーは満足そうに微笑みながら
顎をさすった。
「 さすがに手際のよい仕事ぶりだな・・・・だが、あまりセリスが美しいからといって見とれすぎたりしないでくれよ。
あのドレスもなかなか刺激が強いやつだからな。
・・・いやいや、全く私としたことが」
ドレスを身に付けている妻の姿を思い出してしまったのか、
エドガーはやや頬を赤くしつつ何気にひとりごち、大きくため息をついた。
画家の方も、エドガーの表情の変化を見て
それが意味するところを 薄々察しつつ、
極力顔の表情を変えることなく続ける。
「・・・全て心得ております。セリス様の負担にならぬよう逐次休憩を入れております。
既に昼食を終えられており、今は寝室にておくつろぎのことでしょう・・・。
私もこれよりお部屋に戻りまして、
作業を再開いたします」
「 宜しく頼むよ 」
だが静かに頭を下げてからその場を退出していく画家の心中には
別の想いが沸き起こっていた。
( 先程紅茶に潜ませた眠り薬、セリス様もお飲みになった頃だろうな・・・・)