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シテはいけないことをスルということ
【その他 官能小説】

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『星空の下で逢いましょう』-1

 今夜は特に星がきれいに出ている。
 宝石が敷きつめられていると言ってもいい。
 妻の手料理も美味いし、酒もほど良くまわってきた。

 こうやって星空を眺めながら晩酌に興じられるというのは、何にも代え難いものがある。

 しかし、食卓に妻の姿はない。

 妻が勤める会社の人間が仕事でミスをしてしまい、その報告書を明日の朝一に提出しなくてはならないということで、連帯責任として妻も呼び出されたのだった。

 ついでに言うならば、僕たち夫婦のあいだに子どもはいない。
 年の離れた妻はまだまだ若い盛りだが、自分のほうはもう高校生くらいの息子や娘がいてもおかしくない年齢になった。

 新しい家族を期待していないと言えば嘘になるけれど、お互いそのことに固執することなく、それぞれのライフワークを尊重している。

 これで結構うまくいっているのだ。

 産婦人科医としての夫を評価してくれる妻がいるおかげで、脇道に逸れることなく今日までやってこれたんだと思う。
 僕だって妻のことを評価している。

 ただ、僕のやっていることは余所様(よそさま)の大事な体を診る仕事であって、しかもそれが女性相手というのだから、絶対に間違いを起こしてはならないのだ。

 まあ、実際には医療の現場でそのような不謹慎な行為に発展することなど、まず有り得ない。
 インターネットの普及によって社会全体の風紀が乱れ、現実離れした妄想を助長させているに過ぎないからだ。

 とは言うものの、医師にだって感情はあるし、女性の裸に興奮をおぼえる。

 近頃の女性たちの身なりときたら、これ見よがしにおしゃれをして、化粧にまで気を配って病院を訪れる。
 病院の中にまで美意識を持ち込まれた日には、診察をするこっちが恥ずかしくなってしまう。

 ようするに、身の丈に合った服装で検診に臨んでほしいということだ。

 今日だってそうだ。
 うちのクリニックに波野千晃(なみのちあき)という二十代の女の子が来ていたのだが、彼女はエチケットの範囲を超えた香水の匂いを身にまとい、やたらとめかし込んだ様子で僕の前にあらわれた。

 まったくのプライベートで出会っていたのなら、おそらく僕は彼女に対して何かしらのアプローチを仕掛けただろう。
 それほどまでにチャーミングで、成人女性としての色気も申し分なかった。

 性に奥手そうに見えるそんな彼女だからこそ、クリニックを訪れた理由を聞いたときにはがっかりさせられた。
 たまたま膣内にマニキュアが入ってしまったのだと、赤面しながら言っていた。

 正直、そういうケースも少なくはない。

 ある女性の膣にはビー玉が入っていたこともあったし、また別の女性からは玩具の一部が出てきたこともあった。
 欲求を満たすためには仕方がないのかもしれないが、その行為の内容によっては、将来子どもが産めない体になってしまう可能性だってあるのだ。

 加えて警告するならば、病院サイドの人間を信用しすぎるのもあまり良くないと言いたい。
 相手が女性医師ならまだしも、男性医師ともなればやはり意味合いがちがってくるだろう。

 医師の手つきがいつもとちがう動きを見せても、「ちょっとした手違いです」の一言で片付けられてしまい、過剰な触診に涙を呑む羽目にもなりかねない。

 実際にそういう事例も報告されている。
 医師同士のセクシャルハラスメントがあれば、医師と患者のそれも有り得るということだ。

 それにしても、と僕はため息をついた。
 今の仕事にうんざりしているわけではなく、自分の使命とは言え、何人もの女性の体を救ってきた功績を褒めてくれてもいい時期ではないのかと、自分勝手に思ったからだ。
 それこそ褒賞ではなく、もっと別のかたちで還元してもらいたい。

 いけない、アルコールが入ったせいで余計なことまで考えてしまった。

 そろそろ二階に上がって、天体望遠鏡のメンテナンスでもしよう。
 そのついでに宇宙と語り合うというのも悪くない。

 僕は酒の肴の残りを口に放り込み、芋焼酎でそれを胃に流し込んだ。
 ふらっと立ち上がってみると、行動すべてがおぼつかないことに気づいた。


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