『マイ・リトル・リグレット』-6
ステンレスの冷たい輝きがなおさら不安を煽(あお)る。
あんな物があたしのあそこに入って、ぐずぐずに汚れた中を覗かれちゃうんだ──。
自分の膣は狭いほうだと思っていたので、治療に堪えられるかどうか怖かった。
「ゼリーが冷たいと思いますけど、ちょっと我慢してください。それじゃあ力を抜いてください。器具が入りますよ」
ゼリーだとか器具だとか、カーテンのあちら側が見えないんじゃ心の準備もままならない。
結局めちゃくちゃ緊張したまま、ついにファーストコンタクトが私に触れてきた。
冷たいっ──。
局地的な温度差に体が反応した。
猫の前脚みたいに両手をすくめて、私はもう成り行きにまかせて唇を引き締めることしかできなかった。
こんな場面で情けない声を出すわけにはいかない。
「痛む感じはありませんか?」
それに応えるには口を開かなきゃいけない。
「はい……。だいじょうぶです……」
言ってすぐに歯を食いしばる。
痛みがない代わりに、下腹部がバルーンみたいに膨らんでいる感覚がある。
さっきの器具は確かに私の体内に挿入されているようだ。
「何か見えますね。これは何ですか?」
「マニキュアだと思います。あのう、たまたま入ってしまって」
私はごまかした。でも彼にはわかっているはずだ。
こうなってしまう理由は、故意に入れたとしか考えられないと思っているはずだ。
私の顔がまた火を噴いた。
「異物を取り除いたあとで、念のために触診をします。それで異常がなければ、膣内洗浄をして終わりにしましょう」
「はい。おねがいします」
秘密の中の秘密を覗かれたままで交わす会話は、何とも行儀が悪くて、もう懲り懲りだった。
*
翌日、私は元気に出勤して、休んだ分を取り戻そうと仕事に情熱を燃やしていた。
幸いにも私の体はどこにも異常はなく、しかし医師からの遠まわしのお咎めに、ひたすらしどろもどろになっていたのは言うまでもない。
その日の帰宅途中、あのときのコンビニエンスストアとは別の店に私は立ち寄った。
ファッション雑誌を立ち読みして、少し店内を巡ったあと、トイレを借りることにした。
あんな失敗はもう二度と味わいたくないと思いながら用事を済ませて、『トイレ』だけに、すべて水に流した。
それから惣菜コーナーで適当なお弁当を選んで、レジに並んだ。
そこには募金箱が設置されていた。中身もけっこう詰まっている。
私は頭の中で電卓を叩き、いくらかの小銭を募金箱に入れた。
「ご協力、ありがとうございます」
店員の爽やかすぎる笑顔に胸が痛んだ。
お金はちゃんと払ったからね──。
店を出て、お腹にそっと手をあてがう。
膣内に隠し持った物が子宮にあたり、処理しきれないくらいのラブジュースを分泌させていた。
今回はちゃんと取り出せるサイズの物にしたから、安心、安心──。
今夜はどんなパフォーマンスで責めてみようかと、路上で自慰妄想に耽る私だった。