記-20
そういえば、自分の若い頃にも、夏場に猛勉強をするというイベントがあった。
せっかくの夏休みなのに──なんて文句も、セミの声にかき消されていたのを思い出す。
今まさに、隣の女の子は、テーブルに置いたクリアファイルから、教材のようなものを取り出している最中である。
そこからすべり落ちた、一枚の紙が、私の膝の上に着地した。
「すみません……」
ささやくような声で、女の子が言うと、私も彼女に同調した。
大人しそうだが、言動は繊細であり、清楚でいて、芯がある。
将来はどんな職業に就くのだろうかと、私は余計な夢を見ていた。