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パレット
【純愛 恋愛小説】

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PINK color-8




食料を買い込んだスーパーの帰り道、いつも通う本屋に顔を出す。
奥のカウンターには見知った先輩が居た。そのカウンターには本屋開業30年を記念した時に作った絵本が置いてある。
恭弥先輩に聞くと、結構好評なようで、欲しがる人が絶えないらしい。
そのことを作者に言っても気分次第で応対は変わるが、特に気にしていないようだ。
ちなみに、その絵本の原紙は俺の家に大事に置いてある。
他のヤツのところになんて置きたくないから。

気まぐれな作者こと雪原美桜の家に入ると、水彩絵の具の匂いが漂った。
多分、今カラーを塗っているんだろう。
美桜の集中を切らさないように俺は静かにリビングに向かう。
いつも通り、キッチンで買い込んだ食料を取り出す。そして今日の昼食と夕食をどうしようか考えながら冷蔵庫にしまっていく。

あれから、美桜とは特別何も変わっていない。
今までも一緒に居て世話を焼いてきたのだし、今更何が変わるなんてこともない。

「・・・慧」
「お、美桜。カラー終わったのか?」
「うん」

仕事部屋から出てきた美桜は俺が来ていた事に少し驚いた様子を見せたが、頷くだけでそれ以上の反応が無かった。
俺が美桜に近づこうとすると、美桜は下がった。

「・・・美桜?」
「・・今、近く来ないで」

え・・仮にも彼氏にそういうこと言いますか・・。別に絵の具の匂いとか気にしないのに。
この前はあんなに甘えてきてたのに・・やっぱりこいつは猫みたいに気まぐれだ・・。

小さくしょぼくれてる俺を一瞥した美桜は踵を返して、また仕事部屋に戻ろうとした。
前だったら、そのまま仕事部屋に戻っていた。
だけど、美桜は部屋の入口で振り返った。

「・・・アイスティー・・。」
「え?」
「・・カラーばっかで鼻痛くなるから、すっとするヤツ・・」
「あぁ・・分かった、用意しとく」
「・・持ってきてくれると、嬉しい」
「え?」

え、それってまさか、仕事中でも傍にいても良いってことか・・?
それを聞こうとしたら、もう美桜は仕事部屋に戻っていた。
俺は滅多に見れない美桜の一面を感じて、顔がニヤけるのが抑えられなかった。

端から見たら、何も変わっていないように見える俺たちの関係。
でも確実に、変わっている部分もあった。
ちょっと前では有り得なかった、美桜の気まぐれに深く俺が関われること。
お互い、傍に居て欲しいという気持ちは変わらない。

それが、幼馴染みから恋人になっただけ。

でもこの変化は俺にとっての大事件だ。
今の俺の心を占めているのは、美桜の藍色と、ハートが飛び交うピンク。

俺は水瀬慧。26歳。
職業、美術商の見習い。と、あるイラストレーターの専属販売員。
恋人、あり。幼馴染みでイラストレーターの雪原美桜と付き合っている。





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