PINK color-4
いつも通う本屋に着くと、カウンターで恭弥先輩が待っていてくれていた。
俺に気付くと手を振ってくれた。俺も、それを返す。
カウンターまで行くと、先輩は近くの本棚を整理していたバイトのお下げの女子高生に声をかけた。
「陽菜ちゃん、さっき話した通り任せるよ」
「あ、はい!分かりました」
先輩にいきなり話しかけられて驚いているのが抜けないのかおどおどした態度で俺にもお辞儀をしてきた。
なんかその様子が初々しくて苦笑いを浮かべながら俺もペコッと軽く頭を下げた。
そのあとカウンタ−の奥にある、店員が使う休憩室に案内された。
元々買ってきていたのか、コーヒー缶が置いてあった。
促されてパイプ椅子に座った俺を見て、先輩も真正面に座った。
「それで?猫ちゃんとは一体何があったの?慧の様子じゃ、ただ事じゃないみたいだけど」
「・・・・言い合いして、・・告白、しちまった」
先輩の優しい声に乗せられるかのように俺は言葉を絞り出した。
その言葉に、先輩は驚いた。当たり前だろう、俺はずっと告白なんてしないって言っていたんだから。
「・・・フラれたの?」
「・・多分、いや、絶対・・」
「何でそう思うの?」
少し厳しくなった言葉に、俺は躊躇いがちに言葉を続ける。
「凄く驚いてたし、俺が勢いのまま『好き』って言った後も何も言わなかった・・。そのあとも何も無かったように完璧なイラストを送ってきた・・。」
「・・それで、フラれたって?」
「今も、連絡無いし・・」
言葉を吐き出すと、今度は先輩が大きなため息を吐き出した。
うつむきだった顔を上げると、先輩が呆れた顔をしていた。
「あのさ、慧。猫ちゃんが自分から連絡してきたこと、あった?」
「・・・・」
そう言われてみれば・・誕生祝いと正月の時しか無かったな・・。あとはお腹が減ってどうしようもないとき。
あぁ、そうか。元々、あまり連絡してこない奴がいきなりしてくるわけないよな。
「・・ところで、慧。その言い合いの原因となった俺たちが頼んだ依頼について・・何も聞いてないんでしょ?」
「・・!?」
その言葉に、俺は驚いて顔を上げた。
確かに聞いていない。だけど、その前に何で言い合いになった原因を知ってるんだよ・・!
「悪いけど、言い合いのことは先に猫ちゃんから依頼を受け取った時に聞いたよ。」
「・・美桜から!?」
アイツ、話したのか・・!?
俺が驚いていると、休憩室の扉が控えめに開いた。そして、俺の目の前にイラストを突きつけた。それは紛れも無く美桜のタッチ。こんなほんわかしている優しいイラストは美桜しか居ない。イラストには、花畑に白い猫と茶色い大きな犬が可愛らしく描かれていた。
そっと手にすると、随分重みと厚さがあった。
イラストに目を奪われていると、先輩の声が聞こえた。
「それは、猫ちゃんに描いてもらった絵本。まだ印刷所に持って行って無いからバラの状態だけどね」
「絵本・・!?でも、アイツは絵本なんて・・」
そんな依頼を受けたことは今まで無かったハズ。少なくとも、俺が知っている限りでは。
確かにパラパラめくるとセリフとイラストが一緒になっている。
そうか・・だから『7枚でも8枚でも一緒だ』って言ったのか・・。
「・・勿論、最初は嫌がられたけどね。それでも諦めきれない猫ちゃんのファンが師匠である有名な榊保奈美に頼んだんだよ。」
「ファン?」
「今これを持ってきた陽菜ちゃん」
あぁ・・あの女子高生か・・。でも、何で絵本なんて・・。
そう思っていたのが顔に出たのか、先輩は笑顔で、
「この本屋、来週で開店してから30年なんだって。だから何かしようってことになってさ。」
「・・それで、絵本を美桜に?」
「絵本なら子供から大人まで喜ぶでしょ?」
確かに30年を記念するパネルが出ていたことも知っていた。
あぁ、そういえば美桜に教えるの忘れていたな・・。
・・何で、こんな時まで美桜のことばかり考えてるんだろう、俺。
っていうか、見せたかったモノって・・これのこと?
「とりあえず、それ読んでみなよ・・慧が、第一号の読者になればいいよ」
「・・はぁ・・」
よく分からないけど・・美桜の初めて挑戦した絵本は正直読んでみたいから、言われるままに絵本に視線を落とした。