PINK color-2
夕食を済ませた俺たちはそのままソファに移動した。
仕事の話をするために。
「・・ってことで、この前に描いてもらったイラストは無事買い手に渡ったよ。」
「ん・・。ちゃんと渡ったんなら良いよ」
「あと明後日締め切りのイラスト、出来てるか?」
「・・仕上げのカラー塗れば。」
「了解。3枚とも?」
「うん」
イラストの話ともなれば、さすがの美桜も面倒臭がらずにちゃんと聞いてくれるし会話も成り立つ。普段からそうだと助かるんだけどな・・。
少しでも、美桜の助けになりたくて、世話を焼きたくて美術の世界に足を踏み込んでそれなりに出来るようになってから美桜のイラストの専属販売員を始めた。
ブログ、SNSを使って宣伝・取引している。取引が終わったら、実際に俺が会って交渉が成立するという仕組み。
最初は美桜が描き溜めていたイラストを売っていただけだった、でも人気が出始めると『こういうのを描いてください』という依頼のような書き込みが増えた。
自由な猫の象徴みたいな美桜が嫌がると思ったけど特別反対も受けなかった。
それから依頼式も受けるようになった。
今では取引の大半が依頼。
「で、新しい依頼。」
「・・・1枚?」
「そ。今月すでに10枚は描いてるだろ?」
「・・・・」
本当はもう少しあったけど、美桜の身体が持たない。いくらイラストを描くのを好きだとはいえ、毎回毎回睡眠を削られても困る。
こいつは絶対分かってないけど・・若干描くペースが遅くなってる。
本の山をぶっ壊したのが、疲れている何よりの証拠。
そんな美桜を、放っておくことなんか出来ない。誰よりも、大事だから・・。
「・・別に・・どうせ描くなら7枚も8枚も同じだし・・」
「え?7枚・・?」
俺が持ってきたのは、1枚だよな・・。どういうこと・・、っ!!まさかこいつ!
「勝手に依頼受けたのか!?」
「・・・師匠から」
・・師匠・・頼むから、こいつが疲れてる時に仕事を振らないでくれ・・。
「それ、後回しに出来ないのか?」
「・・今回は書店も関わってるから、締め切り守れって」
「・・・・・締め切り、いつだ」
「・・4日後」
「4日!?」
ちょって待ってくれよ、書店が関わっているってことは大掛かりなイラストだろ!?
明後日締め切りのイラスト3枚はカラーだけだとしても、俺が今日持ち込んだイラスト1枚だって締め切りがある。
こいつを休ませたかったのに・・!!
「・・だから、良いよ。」
「良くない!書店が関わってるっていうイラスト、師匠に振れ!」
「やだ。・・これだけは譲らない。」
っ、何でこいつ、こんな聞き分け悪いんだよ!!
しかも俺が持ち込んだ依頼しかやらないくせに、今回だけどうして引き受けたんだよ・・!
「美桜、お前疲れてるんだ!これ以上睡眠削るとマズイから・・分かった、俺の持ってきた依頼は後回しに・・」
本当は後回しにしたくないけど、こいつは引きそうにないから俺の出した依頼についての詳細が書かれているメモを仕舞おうとした。が、それよりも早く美桜の手がそれを奪った。
「・・これもやる」
「な、お前、いい加減にしろよ!」
「引き受けた依頼なんだから、やる・・!」
「無理に決まってるだろ!!そんなんじゃ、お前の身体がぶっ倒れるんだぞ!!」
珍しく、大声を出した俺に一瞬ビクッと身体を反応させたがそれでも美桜は譲る気がないようで俺に真っ直ぐ見つめてくる。
あの時と、同じ真剣な目。むしろ、俺の方が気圧されそうだった。
「頼むから言うこと聞いてくれよ、美桜!」
「・・今回は嫌。」
「・・・何でそんな頑固なんだよ!」
「慧こそ何でそんなに私を気遣うの?」
「好きだからに決まってるだろ!!」
部屋に、急に静寂が訪れた。
初めて美桜と言い合いをして、自分が何を言ったか整理が追いついてない。だけど、次に言葉が飛ぶのは美桜のハズ。
美桜を見ると、驚いた表情をして俺を見ていた。
・・俺は、何を言ったんだ・・?こいつに、こんな顔をさせるほどの言葉って・・
頭の整理がつかないでいると、美桜が小さく唇を動かした。
静かな空気を震わせ、音になって俺の耳に届いた。
「・・好き・・?」
「・・・っ!!!」
その呟きを頭で理解した瞬間、俺は自分が何を言ったのか分かった。
俺は、言い合いの勢いそのままに美桜に告白してしまったんだ・・!!
恐る恐る目の前に居る美桜を見ると、何かを考えるように目を伏せている姿。
「っ!!」
何も言ってくれない美桜が居る、この空間に居たくなくて、荷物と上着を持って美桜の家から逃げるように勢い良く出た。
美桜から、呼び止めもされなかった。