君に気付いてもらいたい-8
もちろん俺の声に気付くわけもなく、芽衣子はスタスタと俺の横を素通りし、部屋のドアを開け、中に入って行った。
そしていつものように電気を点け、エアコンをオンにする。
最近芽衣子の帰りはめっぽう早くなった。
なぜなら彼女は俺が死んでまもなく、働いていたキャバクラを辞めたからだ。
散々キャバクラで働かせておいてなんだが、彼女がアルバイトを辞めてホッと安心していた。
最近ここいらで痴漢がよく現れるという噂があったから、彼女の帰り道が心配だったのだ。
だからといって、俺が生きていた頃は、キャバクラの仕事を辞められたら困ると思っていたし、アルバイトを終えた芽衣子を迎えに行く優しさなど一つも見せなかったのだが。
自分が死んで、金のことなんかを考えなくてもよくなって初めて、彼女の身の安全に目を向けることができるようになったのだ。
「有野さんに死んでもらいたいくせに、そういう心配はするんですね。
手島さんの行動は矛盾してませんか?」
園田が冷ややかに俺を見る。
「うるせえ、芽衣子は俺の手で苦しまずに死なせてやりてえんだよ」
矛盾しているのは自覚している。
でも愛しているからこそ、彼女を殺してでもずっと一緒にいたいんだ。
「ようやくヒモから解放されたってのに、有野さんも災難ですね。
久留米さんという素敵な男性が彼女にはもういるのに、悪霊ストーカーにつきまとわれちゃって」
俺の横にいた園田が皮肉をたっぷり込めて、哀れみの目を彼女に向けた。