君に気付いてもらいたい-4
とりあえず、誰にも迷惑をかけないような事故死を考えた結果、芽衣子が建設中のビルの下を歩いた瞬間、ビルの上から鉄骨を落とす作戦を実行してみることにした。
運よく俺達のアパートから芽衣子の職場までの間に建設中のビルがある。
俺はビルの屋上に登り、鉄骨に腰を下ろし芽衣子が下を通り抜けるのをスタンバイしていた。
意外と几帳面な彼女はいつもと同じ時間にここを通る。
彼女は大きく胸元の開いた淡いピンクのカットソーと、白い太ももが眩しく映える黒いミニスカートを履いて、カツカツとヒールを鳴らしながら颯爽と歩いてきた。
彼女がふわあっと欠伸をする様子に舌打ちが自然と出る。
ケッ、昨日もまた久留米といちゃついてたんですか?
寝不足になるくらい久留米はタフなのかよ?
芽衣子と久留米が体を重ねたあの日からほぼ毎日、久留米が俺達の愛の巣に顔を出すようになったのだ。
実際奴らが毎日ヤっているのか確かめたわけじゃないけど、同じ部屋に男と女がずっと一緒にいれば、自ずと答えは出てくる。
「おっし、もうすぐ俺に会えるようにしてやるからな!」
俺は苛立ちを抑えながら自らを奮い立たせ、鉄骨に手をかけ、芽衣子がビルの真下を通りがかった瞬間にそれらを一気に落とした。
……つもりが、鉄骨が重すぎて、数センチすら持ち上げられなかった。
どうやら長年のヒモ生活で俺の体はすっかりもやしっ子のようになっていたらしい。
息切れしながら鉄骨の上で寝そべる俺の耳に、芽衣子の遠ざかる軽快な足音だけが残っていた。