君に気付いてもらいたい-10
そんなやりとりを知らない彼女は、放心したようにうつ伏せになって目を閉じている。
長いこと一緒に暮らしていても、俺の前ではこんなだらしない真似はしなかった芽衣子の意外な姿に苦笑いが漏れた。
俺が死んだから、精神的に参っているのか、それとも園田の言う通り、俺から解放されて安心して力が抜けているのか、その答えが気になって、長い睫毛をじっと見やるが、何も答えは出してくれなかった。
視線を横にずらして、少しそばかすのある白い背中をじっと眺めた。
美しい曲線を描く彼女の背中には、所々青くなったアザが薄く残っていた。
言うまでもなく、俺がつけたものだ。
冷蔵庫に酒が入ってない、パチンコでボロ負けした、他の女と会っていたことを責められた……など、そんな理由ですぐにカッとなった俺は、簡単に芽衣子に手をあげていたのだ。
俺が傷つけた跡をまじまじと見れば、たまらなく後悔と懺悔の気持ちでいっぱいになる。
自分より小さくて弱い彼女に、よくここまで酷いことができたもんだと、自分のしてきたことに吐き気がしてくる。
彼女の背中を撫でようと手を伸ばした所で、動きが止まった。
腰のあたりにある、真っ赤で大きい、痛々しい擦り傷が目に入った。
これは、おそらく俺と一緒に海に飛び込んだときにできた、俺が最後につけた傷だろう。
腰の辺りを覆うように広がるその傷は、飛び込んだにしては軽い方だとは思うが、多分跡はバッチリ残ってしまうだろう。
俺は、剥き出しのその傷を直視できずにフイッと目を逸らした。
「あんな断崖絶壁から飛び降りて、こんなかすり傷一つですむなんて、有野さんは本当に運がいいですね」
いつの間にか横に立っていた園田は、彼女の腰の傷をしげしげと眺めながら、そう言った。