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「サハさんは、変わりなかったすか?」
「あ、あのな。絢ちゃんが大変そうだったから言ってなかったんだけどよ.....子供できたんだよ」
「マジすか!?言ってよ!」
「いやー流石に俺も気は遣うさぁ、そりゃ」
「いやいや、めでたいっすね!!おめでとうございます!!」
「なーんか照れるなー....」
「そっかぁ.....サハさんと愛理(あいり)さんが親になるのかぁ....」
「実感ねぇよ、ほんと」
「男の子すか?女の子?」
「野郎」
「名前は俺が付けていいんすよね?」
「ざけんな!」
元とは歳がちょうど両手の指の数分離れているが、見た目と相反する物腰と子供っぽさはバーの客にも人気であり、それこそが商売を支えている。
ちなみに、佐原の場合は両手分で指は9本である。
元が働くようになってからの元に与えられた役職名は、「看板」。
佐原曰く、看板娘ならぬ看板野郎。
当初は嫌がっていた元も、今では言葉通り看板としての責務はある程度全うしている。
元が立つようになって、新たに女性の固定客が増え出しているのも事実。
10畳程しかないこの店では、客との距離も近い。
お陰でお得意様の顔を覚えるのには苦労はしなかったし、新しい客にも敏感になった。
入れ替わり立ち替わり客足の耐えないこの店は、いつも笑顔に満ちている。