第九話(最終話)-1
傍芽が「もう来ない」宣言をした翌日、ハーモニーちゃんが孤児院に預けられることになり、知らない女性がハーモニーちゃんを連れに来た。
ハーモニーちゃんは行きたくないと駄々をこねていて、母さんも「ごめんね」とハーモニーちゃんや俺たちに謝っていたけれど、俺には何もできなくて、ただの高校生に過ぎない俺には何もできなくて、結局ハーモニーちゃんは連れていかれてしまった。
「傍芽さんやハーちゃんもいなくなって、丁度いいですから、わたくしもそろそろ実家に帰りますわ」
ハーモニーちゃんが連れていかれた二日後には、観音がそんなことを言いだした。
「観音さんまで……私、観音さんのこと、友達だと思ってます」
「はい。わたくしも、優紀さんのことは友達だと思っていますわ」
ですけど、と観音は続ける。
「私は魁さまの許嫁で、ここに居候することになったのも『結婚するまでに親交を深めておく』というお父様の提案があったからこそなのです」
結婚するまで。
俺と観音が、結婚するまで。
でも、俺が選んだのは優紀。
「魁さまにフラレたわたくしが、いつまでもここに住まうわけにはいきませんもの。そうでしょう?」
「…………」
優紀は黙る。
きっとわかっているのだ。頭では。
「でもやっぱり、私が観音さんと友達なのは変わりません」
「はい。ですから、優紀さんとはこれからも仲良く致しますわ」
ちらっと、観音の視線が俺へと向いた。
「魁さま。昔、わたくしとした約束のこと、思い出してくれましたか?」
「いや、残念ながら……」
「そうですか。では、この思い出は、わたくしの胸の中に閉まっておきましょう」
「なんでだよ。語ってくれよ、観音。過去編ってやつだ」
「いいえ、語りません。一生の伏線にしておきます」
一生の伏線……。
「C.C.の本名が明かされる日がくれば、私も過去を語りましょう」
「しーつー?」
「あ、C.C.と言うのはですね、コードギアスというアニメのヒロインなんですけど、作中で本名を言うシーンはあったものの音声はなく伏せられていて、二期で最終回を迎えた今でも明かされていない、ファンが気になる謎のひとつなんです」
「そ、そっか……」
よくわからなかった。
まぁいいけど。