第八話-2
「さぁ魁!今すぐこの婚姻届にサインして!」
思い出したかのように婚姻届を見せてきた。
「傍芽。そういうギャグは優紀様の前で言わないほうがいい」
「優紀『様』!?魁どうしちゃったの!?」
真の恐怖を知った後だからな……。
「傍芽さん。魁さんはまだ十七歳ですよ」
「そうだったー!」
馬鹿だこいつ。激しく馬鹿だ。
「大体、俺はお前と結婚する気はないって言ってるだろ」
「でも、悔しい。優紀ちゃん……勝負よ!」
「え?」
「勝ったほうが魁と結婚できる。どう?」
「……わかりました」
いや、俺の意志は?
「お題目は……よし。公平に、さっきから不思議顔でこっちを見てるハーモニーちゃんに決めてもらう」
「ふぇ?」
蚊帳の外にいたハーモニーちゃんを巻き込みやがった。
「ハーモニーちゃん。これから私と優紀ちゃん、愛のために戦うの。どうやって戦えばいいかな?」
「うーんとね……私、お腹減った。ご飯、まだ?」
「そういうことよ」
「…………」
料理対決ってことか?
それはまずい……。
「それでいいです。料理の腕には自信があります」
「あー……傍芽。審査員は?」
「ハーモニーちゃん」
「……他には?」
「いない。ハーモニーちゃんだけ」
俺はハーモニーちゃんの両肩に手を置いた。
「頼んだ」
「?」
***
忘ているかもしれないが、傍芽は俺の母親が認めるほどに、膝をついて悔しがるほどに、料理が上手い。
対する優紀も上手い。とはいえ、彼氏である俺でも傍芽のほうが上手い……美味いとわかる。
「優紀。得意料理はなんだ?」
「えっと、ごぼうの煮つけですかね」
「おばあちゃん!」
渋い。俺は好きだけどさ。
「彼氏からのアドバイスだ。今回作るのは、オムライスにしておけ」
「オイスターソース?」
「オムライスだ。妙な間違い方をするな」
「すみません。噛みました」
「…………」
そ、そんな某作品のごとき振りをされても乗らないんだからな!
「魁!ひそひそ話禁止!」
禁止されてしまった。
仕方ない……。