第三話-5
生徒に促されて授業を開始する菜梨先生なのだった。
***
帰り道。
お腹が減ったら帰ろー。
「優紀。真面目な話をするぞ」
「マジ目な話ですか?」
「マジバナだマジバナ」
俺と話してる時はジョークを言えるほどには話すんだけどなぁ、こいつ。
「友達いるか?」
「イルカの友達はいないです」
「俺が悪かった」
というか聞き方が悪かった。
ジョークで返されないような聞き方をしないとな。
「優紀が友達だと思ってるやつ、何人いる?」
「観音だけです」
即答だった。
観音だけって。
それって今朝まで友達はいなかったってことになるよな。
「友達を作ろうなんて言わないでくださいね。私は、あなたがいればそれでいいんです」
嬉しいことを言ってくれる。
恋人じゃないけど……。
「そもそも『友達がいるのが普通』という考え方がおかしいんです。私は友達がいなくとも、十年間生きてこれましたし」
十年。
優紀は俺と同い年だから、小学校に入学した頃からかな。
「じゃあなんで自殺しようとしたんだよ」
いじめられていたから、というのは前述のとおりだけど、それだって友達がいないことと少なからず関係あるはずだ。
「どうかしていたんです。自殺は最大の犯罪だと私は思っているので、狂ってたんです」
狂ってた。
十年も友達がいなきゃ、狂ってもおかしくないわな。
十年友達がいないということは、それ以前にはいたということ。
友達というごく当たり前の関係を築いていた時があったからこそ、友達がいないという事実に押し潰されてしまうのだろう。
なんて。傍芽が言っていたことなんだけど。
「淋しく、ないのか……?」
「別に……そういうの、わからなくなりましたし……」
そう言う優紀の瞳は、とても淋しそうに揺れていた。
自覚がないのか。
あるいは、自覚はあるけど隠しているのか。
「魁さんは、友達は何人ぐらいいるんですか……?」
友達がいるのを前提で聞いてきた。
「期待に添えず申し訳ない限りだが、実は俺にも友達はいない」
事実。
偽善的な活動を常日頃からしているせいなんだろうけど、友達と呼べる人間が一人もいないのだ。
強いて挙げて杏子くらい。
中々帰ってこないけどな、あいつ。