第三話-4
「なぁ優紀」
「またまたなんですか?」
「なんで同居してんの?」
「はい?側にいろって言ったのはどこの誰でしたっけ?」
そうなんだけど……。
そうなんだけど……!!
「ああそれともあれですか。『あんなこと言わなきゃよかったー』って後悔してるんですか?」
「ん?杏子絡み以外で後悔したことなんて一度もないぞ」
「地味に酷いですね」
杏子はなー。なんていうか。アレなんだよ。
「こらそこのバカップル」
気付くと歴史担当の菜梨(ななし)先生が俺のすぐ後ろに立っていた。
今年三十路を迎える女教師で、近々結婚するとかなんとか。
ちなみに下の名前は琴部枝(ごんべえ)と言う。マジで。
「おはようございます。名無し先生」
「おはよう小田原。含みのある言い方だが、もうすぐその苗字ともおさらばだ」
「苗字は変わっても名前は変わりませんよ」
「言うな……もう諦めた」
可哀想すぎる。
下の名前も場合によっては変更できるらしいけれど、ただ書類を書けばいいというわけではなく、菜梨先生もそこまでする気はないとのこと。
名前と言えば、優紀が俺と結婚したら小田原優紀になるのか。
晴れてWゆうきから卒業できるわけだが、そんなの苗字が『ゆうき』以外の男性と結婚すれば、別に俺とじゃなくても変わるんだよな。
「私の名前はともかく。もう五分休憩は終わってるんだ。私語は慎め」
「だそうだ」
「…………」
優紀に振ったが、彼女は無言でただ俯いているだけだった。
忘れがちだが、優紀は過去にいじめられていたんだよな。
で、菜梨先生に指摘されて注目を浴び、黙りこんでしまったと。
もしかしたら軽度の視線恐怖症なのかも。
しかたない。ここは優紀を和ませてやらないと。
「名無しのごんべえ」
「鬱だ死のう」
菜梨先生が本気で落ち込んでしまった。
優紀も黙ったままだし、最悪のジョークになってしまったじゃないか。
「菜梨先生って、うちの制服似合いそうですよね」
「そ、そうか?まだいけるか?高校生に見えるか?」
優紀は復活せずとも菜梨先生が復活した。
お世辞に弱い人だな。
「ごんちゃんせんせー。早く授業始めてくださーい」
「はっ!?もう十分も無駄にしてる!?」