第二話-5
「まさかとは思うけどダーリン。浮気してるの?」
していない。
傍芽とはもう、終わっているのだから。
しかし傍芽がそう訊いたタイミングで。最悪のタイミングで。
「浮気って、どういうことですか……」
彼女が。
結城優紀が現れた。
「え?あれ?魁に妹なんていたっけ?」
妹……そうだ妹だ。優紀は妹ってことにしよう。
いや別に傍芽は元彼女であって今は他人なのだから、優紀のことを隠す必要はないんだけどね。
「そうなんだ。妹っていうか、従妹だな」
「じーっ」
彼女は効果音付きで俺のことを睨んでくる。
「はじめまして。従姉の優紀です」
おぉ!まさか話を合わせてくれるとは!
「六郷傍芽。魁の婚約者です」
「…………」
場が凍った。
「ソウナンデスカー」
彼女は踵(きびす)を返し、居間へと戻っていく。
ようし一旦は落ち着いた。
「それじゃあダーリン。出直してくるね」
「傍芽」
俺は正面から見つめ、そして言う。
「お前にそのゴスロリは似合わない」
***
六郷傍芽。
そもそもどうして彼女と付き合うことなったのかと言えば、端的に説明して優紀と似たような状況があったからだ。
といっても何も傍芽が自殺しようとしていたわけではないのだが、とにかく俺なりの『ほっとけない理由』があって付き合うに至ったわけだ。
補足。
先頃俺は『一度もモテたためしがない』と言ったと思うんだけれど、ならばどうして元カノがいるんだと非リア充の方々は怒り心頭だろうから、一応補足として。
傍芽とは付き合ってこそいたものの、実際恋人らしいことは一度としてしたことがないのだ。
キスはもちろん、デートや手を繋ぐということもしたことがない。
恋人期間が短かったというのもあるかもしれないが、それ以上に俺がお子ちゃまで、傍芽もさっきみたいに『ダーリン』と呼んでくれたことはなかった。
むしろさっきのごく短い時間での会話のほうが、当時よりも恋人らしいくらいだと言えば、大体の想像はつくだろうか。
「そんなわけで。あいつは元彼女であり、今は他人のはた迷惑な傍芽さんだ」
「その話を聞く限り、他にもフラグを立ててそうですね」