第二話-3
「何言ってるんですか。にゃんさんになら、私は喜んであなたを譲ります」
「怖いこと言うな」
あいつのことは好きではあるんだけれど、それは憧れのそれであり恋愛のそれではない。
今は別に憧れてないんだけど。
周りの人たちだけでも幸せにしたいっていう俺の考えは、元を辿ればあいつの影響であるところが大きい。
今は見る影もないけれど。
会った当初は自由人じゃなくて、市民に優しく規律に厳しい人だったんだよな。
正義の味方、と当時の俺は表現したはず。
「にゃんさん、次はいつ帰ってくるんですかね?」
「さあな」
一生帰ってこなくても困らないんだけど。
しかしどこかで野垂れ死んでもらっては困るし。
「あら、噂をすれば、かしら」
ピンポーン。
来客を告げる音。
「ときに。あなたはゲームとかします?」
「BLゲーならやらないからな」
「そうではなくて、人生ゲームを持ってきたのであとでしませんか?」
人生ゲーム。
天使やら悪魔やらが出てくるテレビゲームのひとつ。
説明は不要かもしれないが、『人生』と付いてはいても重い内容ではない。
ルールは別にして、『桃鉄』や『いたスト』のようなボードゲームタイプのものである。
「いいな。でも最新ハードは持ってないんだよ」
「あ、いえ。テレビゲームのほうではなくてですね、床に広げて遊ぶほうの人生ゲームです」
「そんな物があるのか」
ボードゲームはテレビゲームでしかやったことがないから、まさか実際にあったとは。
「魁。あんたにお客よ」
母さんが玄関のほうから戻ってきた。
俺に客?
俺を訪ねて来る人は実は多々いるが、このタイミングで来る客は嫌な予感しかしない。
それこそさっき思ったように、早くも新キャラ登場!なんて展開が予想される。
恋愛小説の序盤で彼女ができた場合、後々ろくな目に合わないんだよな。
「へーい」
とは言えわざわざ訪ねて来た人を無下にはできず、玄関へと向かう。
「げっ」
客は見知った顔だった。
しかもなるべく会いたくない部類の。
特に今は。
「ふー。人の顔を見るなり酷いっちゃ」
「なぜラムちゃん口調」
「と。ラムちゃんの真似をしている場合ではなかった」