第一話-1
彼女はびくびくと震えながら、視線を落として教壇へ歩いていく。
クラスメートたちの、いや、これからクラスメートとなるこいつらのハイテンションな声は聞きたくないとばかりに顔を歪め、それでも彼女は教壇に立った。
「よ!」
相変わらず視線を落としたままだったので、軽く声をかけてやる。
すると彼女はようやく俺の姿を確認したようで、ほっと胸を撫で下ろしていた。
そんなに大きくもない胸を。
「あ、あの」
彼女は俺から視線を外し、それでもちらちらとこちらを横目で見てきたが、とにかく視線を外してクラスメートたちに向き直った。
「結城、です。結城優紀(ゆうきゆうき)、です」
「あのぉ、結城さんって小田原と知り合いなんすか?」
一人のクラスメート(男)が、興味津々といった面持ちで彼女に尋ねた。
「は、はい……あの、ちょっとした知り合いで……」
ちょっとした知り合い、ね。
別に隠すこともないだろうに。
「優紀は俺の彼女だ」
俺はそう告げる。
事実を。
「え?」
なぜか彼女まで驚いていた。
「えぇぇ!?ど、どうしてですか!?」
「どうしてもこうしても、俺はお前の命を貰ったんだぜ?つまり人生を貰ったんだ。彼女、どころか妻と呼んでも過言じゃあない」
「過言です!それにあげたつもりはないです!預けただけです!」
「同じことだろ」
「全然違います!」
少しばかりシリアスになってしまうが、早いうちに俺と彼女が出会った時のことを話しておこう。
ジャンルは『恋愛/青春』になっているが、俺としては『恋愛/コメディ』にしてラブコメ路線のほうが好みなのだが、それはそれとしても、やはり俺たちが出会ったエピソードを語るとなると、どうしてもシリアスになってしまうのが残念ではある。
***
屋上。
ありきたりかもしれないが、俺は屋上にいる彼女を見つけてしまった。
それは別の高校の屋上で、本来なら部外者である俺が入っていいわけもないのだが、しかしその日はその高校の文化祭で、近年よくあるチケット制ではなく、偶然立ち寄った俺でも入れる一般公開の日だったのだ。
「おい」
フェンスに身を乗り出している彼女に、一声かける。
チェック柄の赤いプリーツスカートに、紅葉色のブレザー。
この高校の生徒のそれと同じ格好をしていた。