第一話-2
「何してんだよ」
「…………」
別に怒鳴ったつもりはないのに、彼女は俯(うつむ)いて今にも泣き出しそうな表情になってしまう。
「まさか、死のうとしていたわけじゃないだろうな」
「べ、別に……なんだって、いいじゃないですか……」
どうやら図星だったようで、俺は彼女と距離を詰める。
「な、なんですか……」
「死ぬな」
安っぽい言葉だとは思いながら、俺はそう言った。
「ち、違うって言ってるじゃないですか……!」
「自殺したって何も解決しない。詮索するつもりはないが、あんたが死んで誰が喜ぶ」
「……喜びますよ。あいつらは、ノリで生きてますからね……」
ノリ。
流れ。
空気。
空気を読んで、生きている。
恐らくはいじめられているのであろう彼女を犠牲にして。
空気を読めないと、自分が標的になるからと怖れて。
或いはただ単に性格が悪いのか。
「あんたに俺の夢を教えてやる」
「は?」
きょとんとする彼女。
話の展開について行けてない感じだ。
「周りが幸せを感じられる環境を創りたい」
「偽善者」
「どうとでも言え。誰もが幸せに、なんて思っちゃいないけどな。せめて自分の周りくらいは、自分の知り合いくらいは、幸せであってほしいんだ」
だから、と俺は続ける。
「あんたにも幸せになってほしいんだ」
「私、あなたの知り合いじゃないですけど……」
「知り合いだよ。今こうして話してるだろ」
俺の言葉に彼女は顔を歪め、怒っているかのように、だったら、と言った。
「あなたは私を幸せにしてくれるんですか!?」
真っ直ぐと彼女の瞳を見つめ、迷わず俺は答える。
「当たり前だ」
「ふんっ、言うだけなら簡単ですよね」
「簡単だな」
睨みつけてくる。
野獣のように。
怖い怖い。
「あんた、死のうとしてたよな」
「それが何かっ!?」
すっかりご機嫌ナナメのご様子。
「死ぬくらいなら、その命、俺に預けてくれよ」
「は?」
「側にいろ。そしたら、いついかなる時でも守ってやっから」
途端に彼女は表情を緩めた。
「な、何言ってるんですかっ……」
交渉成立と勝手に判断し、彼女のスカートのポケットの中に手を突っ込む。