サヨナラの果て-5
「うわあ、マジで先週小テストあったのかよ」
聞き慣れたテノールの声が鼓膜を刺激する。
見れば、優真先輩があちゃーと言った感じで前髪をクシャリと握り締めている後ろ姿が目に入った。
「受けなかった奴は単位に響くらしいぜ」
優真先輩の友達がギャハハと笑いながら彼の肩を叩いている。
「あー、めったにサボんないのに、たまにサボればこれかよ」
「優真、お前ってホントタイミングの悪い奴だよな」
ニヤニヤ笑う友達の横顔が見える。
「そうなんだよ。オレ、昔っからタイミングが悪くてさ。ここぞっていう大事な時に失敗すんだよなあ」
そう言って優真先輩は友達と笑い合いながら、あたし達から少し離れた自分の席に荷物をドカッと置いていた。
「え、な、何で? ヨリ戻ったんじゃなかったの!?」
その音に我に返ったらしい吉川くんは、あたしの目の前を素通りしていった優真先輩の後ろ姿とあたしを何度も見比べながら、動揺した声であたしの肩を掴んでユサユサ揺すった。
でも、そんな吉川くんの言葉なんて耳にまるで入らなかった。
いつまでも耳に残ったのは、さっきの優真先輩の言葉。
――オレ、昔っからタイミングが悪くてさ。ここぞっていう大事な時に失敗すんだよなあ。
きっとあれは小テストのことについて、じゃない。
優真先輩の後悔が、あの言葉に全て詰まっていた、そんな気がした。
必死で堪えていた涙が、ポツリと手の甲に落ちた。
優真先輩の優しい笑顔や、心配してくれた時の困ったような顔、あたしを抱いてる時の少し男らしい顔。
この数日間で知った、優真先輩のいろんな姿が一気に瞼の裏に雪崩れ込んできた。
きっとこれらは優真先輩とあの時別れなかったら、少しずつ知っていった姿だ。
でも、一旦歯車が狂ってしまったあたし達は、もう噛み合うことはないだろう。
あたしは、優真先輩じゃなくて陽介を好きになってしまったから。
「……これで、いいの」
涙声で吉川くんを見れば、どうしていいかわからないみたいに目を泳がせている。
視界の端には、窓際で友達と談笑している優真先輩の後ろ姿が映っていて、それはとても楽しそうで、泣いてるあたしに全く気付いていない。
そして、優真先輩は、こちらを一度も振り返ることはなかった。