光の風-1
ここは異界、神が存在し神の力を受け継ぐ人間が神として存在する世界。その中の一国・シードゥルサ皇国が今回の舞台である。
この一国を治めるのが若くして王位についた、現国王カルサ・トルナス。彼の参謀として傍らにつくのが従兄であるサルスパペルト・ウ゛ィッジ秘書官であり、この若き二人によって平和に安定した暮らしを人々は送っていた。
だがそんな国にも大きな問題がある、それがたった今、小言という形で議題にかけられていた。
「いいか、カルサ?お前もそろそろ年頃だ、何度も言うようだが妃をめとってもいい時期ではないか?」
玉座に不機嫌そうに座る王に向かって秘書官は説得を始めた。高貴な衣裳に包まれた二人。歳はそんなに離れておらず、小さい頃から兄弟のように育ってきた。サルスはカルサを弟のように思い、またカルサもサルスを兄のように思っていた。
「あーもう、一体何回目だよ。今は妃をめとるつもりはない!しつっこいぞ、お前。」
「いいや、今日という今日は観念しろ。いいか?お前は一国の王だ、王たるもの妃をめとるのが国の安泰にもつながる。他国からは話は山ほどきてるんだ、こっから選べ!」
山のように積もった見合い写真を見てカルサは心底うんざりした。写真をもつ従者を力なく手であしらい下げさせる。サルスはカルサに食いかかった。
「カルサ!!」
「あのな、何回も言うがオレは政略結婚をするつもりはない。第一オレの妃になるなんて不幸以外の何物でもないぞ?」
「…それは雷神の力のことを言っているのか?」
「雷神の力か…遥か昔、太古の世界で神々が一つの国で過ごしていた頃、人々を作り、そして国を作った。その末裔がオレだったというだけだ。」
「神の力を受け継いだ者達…御剣(みつるぎ)」
「ま、オレは御剣であり、しかも一国の王室に生まれたもんだからややこしいんだけどな。雷神の力を使い国は平和を保てるが、逆に雷神の命を狙う者も多い。妃をめとって、その者を危険にさらすわけにはいかないだろう。」
少し遠い目をして呟くカルサにサルスは少し心を痛めた。彼の命を狙って踏み込んできた輩は少なくない、その犠牲者もしかりだ。
「気持ちは分かるが、だからと言って…」
「オレに見合うといったら…そうだな、風神くらいじゃないか?サルスどうしても妃をめとらせたいなら風神をつれてこいよ。」
そうおちゃらけて言い残し、カルサは玉座をあとにした。深く鮮やかな紺の髪がゆれ、手際よくマントをはおり外にでていった。
「ったく…風神だなんて無茶なこと言いやがって。どこの世界にいるのかも分からないし、男か女かも分からないじゃないか。」
遥か古の国、初代雷神と風神はいい仲間でありパートナーであったと聞く、彼らが結ばれたとは伝えられてはいないが無意識に雷神の力が風神を求めているのかもしれない。
「サルスパペルト様、封書が急ぎ届いております。」
「ありがとう。」
封書を渡すと従者は下がり、玉座の間にはサルス一人が残った。渡された封書を丁寧にあけて中身を確認する。
「…これは!?」
中を見るなり顔色を変え、サルスはカルサの後を追っていった。中身は風神から。会いにくるとの目通りの願い書だった。