戻った営業所の惨状-1
「契約取ってこいって言ったよな」ドスの効いた声で睨んでる。
こんなに怖い顔されたのは初めてで、すぐに理由を言わないと殺されかねない雰囲気だ。
「そそ、創立記念だそうで、やや休みになっていました。」後ろに下がる、
「創立記念だぁ?」
「は、はい、40周年だそうです」確かそう書いてあった、
「40? 中途半端じゃねーか、もう少しマトモなウソをつけよ」
「ほほんとうです。張り紙してありました。」
恐ろしくて手に持った下着で額の汗を拭った。
「じゃぁ 他の会社で契約取ってこい! 定時まで帰ってくんな、分かったか!」
僕を指さして、外に手を向けた。
「はい!!」
僕は、急いで自分の机にあるカバンを掴んで部屋を出ようとした、その時、
「ちょっとまて!」と所長が止めた。
「はい?」怖くて逃げ出したい。
「ポケットの中のを置いていけ」と少し声が小さくなる所長、
僕は自分のポケットに手を入れると、さっきの下着が出てきた。
「ここ、これですか」僕はカウンターにそれを置いて、
目の前の下着と、所長の机の私服などを思い出し、疑問に思う
「……あの、有村さんは?」と所長に聞いた。
とたんに所長の顔がきょとんとした顔になり、
「ああ、い、いま買い出しに行ってるよ」と言いながら会議室のドアを後手でゆっくり閉めている。
僕は太った所長の隙間から一瞬、会議室の中が見えた。
複数のカメラが三脚で立てられていて、戸塚さんと島井さんがいた。
何故か島井さんは全裸になっていて、布団が敷いてあった。
「あれ?」僕の頭はおかしいのだろうか、見えてる物が整理できない。
「今、戸塚さんと島井さんがいたような……」
会議室のドアを閉めた所長は
「ああ、掃除してもらってるんだ、お前はいいから出て行けよ」
所長は怖いけど、なんだろ、物凄く不安だ。
「え、でも、島井先輩は裸でしたよ」僕は荷物を床に落として所長の方に進む。
明らかに慌ててる所長は「お前は営業に行ってこい!」と僕を止ようとしていて、とても怪しい。
「ちょっとだけ、中を見せていただけませんか」
僕にしては信じられないほどの勇気で所長を押しのけた。
抵抗する所長は「いい加減にしろ」「やめろ」といいながらドアノブを守りだした。
「ちょっと、ちょっと見たいだけなんですって」
思わず、所長を手で押して倒してしまった。
「いてぇ! てめぇ〜 あ!」怒る所長を無視してドアを開いた。
会議室の机や椅子は端っこに立てかけられて、1つの布団が敷いてあり、
島井さんは全裸で、ゴムがついてる大きな注射器のような物を持ってこちらを見ている。
戸塚さんは全裸の人を肩に抱えて座っていた。
その人は、ぐったりと戸塚さんの肩に上半身を預けて白い背中が見える、
そして、膝立して広げた足の下に洗面器が置いてあった。
白い人は、すぐに有村さんの後ろ姿だと分かった。
「な、なにしてんですか」僕は、走っていた。
「あれ、バレた」と戸塚さんが言う。
僕は夢中で、島井さんをなぎ倒して、戸塚さんが抱えている有村さんを掴んで引き離した。
首が揺れて上向きになった時に顔を見ると、間違いなく有村さんだった。
彼女を布団に下ろすと、寝ている有村さんの肩を掴んで、
「有村さん、起きろ、有村さん、起きろ」と体を揺すっても起きない
少し躊躇したけど、顔を平手で叩いても目を開ける気配すらない。
必死で起こそうと努力しているにもかかわらず不思議なくらい無反応だ。
それでも起きない有村さんを揺すっていると、
「無理だよ、あと5時間は寝たままだよ」後ろから声が聞こえた。
怒った僕は振り返り、僕達を見下ろしている所長の襟首を掴んで、
「有村さんに何をしたんだよ」と叫んだ。
所長は黙って僕の腕をつかんだとたん、気がついたら床に倒れていた。
「あれ?」
「さっきのバカ力はどこにいったんだよ、まあいいや」
あきれ顔で所長はしゃがんむと、僕を覗きこみ
「お前も有村で遊んでいいぞ、30分やるよ」と言った。
所長の言葉が理解できない。
「あそぶって……なに」何を言っている。
所長は僕の肩に手を置いて
「これな、2回目の新人歓迎会なんだわ」
所長や先輩がニヤけながら僕を見ていた。
倒れている僕の背中には、何も知らずに静かに寝ている有村さんがいる。
頭に血が上り、体が熱く、こいつらの非道ぶりに頭にくる、
「ふ、ふざけるな! 彼女はおもちゃじゃない、お前たち犯罪だぞ、警察に訴えてやる!」と立った時、
戸塚さんの拳が腹に入った。