理不尽な営業-1
この就職難時代に、見た目の悪い僕が、社員と迎え入れてくれたのは奇跡だと思った。
同期で入社した人たちは美男美女だらけで、場違いな僕は委縮しまくっていた。
僕は佐藤土筆 名前通り身長も低く丸顔なせいで太って見られる事が多い。
中学、高校と男子に「顔壊れちゃってるよ」と同じセリフを、違う人から言われたのが今でも頭に響いてる。
対人に難あり、なのに営業職になって配属地は実家から通えない営業所になった。
不器用な僕は、さっそく営業所に入って先輩に苛められている。
でも、いつもの苛めよりも剣がある感じで、入社挨拶から全員に睨まれて怖かった覚えがある。
毎日無茶な事をやらされて失敗して皆に怒られる。
しかも関係ない先輩にまで怒られる始末だ。
皆で僕を辞めさせようとしているのを嫌とゆうほどわかる。
あまりにもの辛さで人間を辞めることも考えたけど、思いとどまっていられる理由があるのだ。
僕と一緒に配属になった女の子が綺麗すぎて、仕事の事だけど話すと天にも昇る気持ちになるのだ。
彼女の名前は有村かすみ
同期の入社の中では、いや、自分が今まで見てきた女子でアイドルを含めても彼女に勝てる人はいないだろうと思う。
黒髪は輝いて顔はテンプレート通りに忠実に立体になっていて、
体は頭身のバランスが日本人とは思えないほどスタイルがよく、
手の指は透き通るほど細長く指のしわすら綺麗なのだ。
そして僕が話しかけても、必ず正面を向いて誠実に答えてくれる。
その瞳の奥には僕に対しての嫌悪感などみじんも感じない、
もしかしたら告ったらOkしてくれるかもしれないと期待してしまうのだ。
でも、僕以外の人にも同じ接し方だし、
イケメンの宅急便のお兄さんが、仕事中にも関わらず告ったけど振られて帰って行った。
僕はこんな境遇でなければ、これだけの美人と会話することは一生ないだろうと思う。
だから有村さんと会話する事で辛い苛めにも耐えられてるのだ。
営業所の所員は5人、田辺所長と島井先輩と戸塚先輩と僕達だ。
先週、新人歓迎会があったけど、なぜか僕は自腹だった。
それより、先輩たちの質問責めに誠実に答えてる有村さんの事が少し分かったのは大ラッキー。
どうやら付き合った人はいたけど今はいないらしい、それより仕事を覚える事に必死だそうだ
高校生の弟がいるがヲタクで困っていたり、
一人暮らしをしたくて部屋を探していたり、
初めてHしたのは……言えないそうだ。
ちかんにあった事もないらしい
その他、趣味や学校、自宅の所在地など色々聞けた。
隣に座っている田辺所長は肩や手に触れて羨ましかった。
でも、あの日を堺に皆のイジメはきつくなってきたように思える。
そして今日、出社したと同時に戸塚先輩が近づいてきて、
「今日お前一人でOX会社で契約してこい、どの部署でも良いから1つぐらい取ってこい」
と資料を机の上に置いた。
一人で営業したことも無ければ、OX会社は大きなビルで、とても1日では回れない。
「そんな無茶です。戸塚先輩もここは難しいって、言ってたじゃないですか」
「何いってんだ、俺とおまえでは規模が違うだろ、1件でも取ってくればいいんだよ」
それを聞いてる所長は
「そうだ、いつまでも先輩に甘えるんじゃない、今日は必ず1件は取ってくるまで帰ってくるな」怒号が飛ぶ。
有村さんが来ていないときは、皆、暴力団のようだ。
僕はたまらず資料をカバンにつめて営業所を飛び出した。
入社して2ヶ月もいないないのに、一人で営業するなんて無謀だと思う。
ましてや、あの会社は怖い人だらけだし、不安で足取りが重く今日中に帰れるか心配になる。
電車に乗って、目的にビルに着いた。
そびえたつビルの入り口にはシャッターが閉まっていた。
「あれ? 閉まってる」近寄ると張り紙があり、
”当OX会社は、誠に勝手ながら創立40週年記念の為、お休みを頂いています。
緊急時の当方連絡は…………”
「休みだ……」
ガムテープで4辺を張り付けてる紙を目の前に、緊張が溶けた。
「休みなら、営業は出来ないよね」
正当な理由が出来た事に少し嬉しくて、踵を返して来た道を戻る事にした。
そして、営業所に戻ってくると、入り口に「本日休み」と書いてある札がかかっている。
「なんだこれ?」
間違えて出したのだろうか、
そもそもこんな札があった事自体しらなかった。
「お店でもないのに…」と思いドアに手をかけると鍵がしまっている。
「変だな、誰もいないのかな?」
持っていたカバンからカギを取り出し解錠してドアを開いた。
怒鳴られると思って小声で「ただいま帰りました」と言って入ったけど、
誰もいなかった。
事務の有村さんすらいない、でもPCのモニターは点いていた。
机の上には有村さんのバッグがあって、中身が出て散乱していた。
「泥棒かなぁ、怖いなあ」不安になり、周りを見渡すと、
戸塚さんの机の上に携帯があり、所長の机の上には、なんと有村さんの私服が置いていた。
「なんで、こんな所に……」
近づいてみると私服の上には、裏返っている白い下着が置かれている、
「……」手に取って見ると柔らかく小さく、股間の部分に黄色い筋がついていた。
「これって……有村さんのじゃ……ないよね」明らかに女性の下着だ。
「泥棒じゃなく強盗かもしれない!」納得できる推理だ。
僕がいない間に営業所は大変なことが起きていたのか、警察に連絡だ。
と電話に手を出した、その時、
「なんでお前がいるんだ!」と斜め後ろから所長の声がする。
僕は振り返ると、会議室の入り口に、ジャージ姿で鬼のような顔をした田辺所長が立っていた。