黒い恋人-1
「夏目くん?夏目くん?そろそろ起きなさい?」
「んっ ふぁっ〜 って、あれ?ここは……」
「保健室よ?……気分はどう?」
「あぁ?気分もなにも別に俺は……」
ゆっくりと身体を起こした俺は、目を擦りながら大きく伸びをした。
ここは学校の保健室、授業が終わりおとなしく奈美子の仕事が終わるのを待っていたつもりが、
思いのほか退屈だったのか、いつのまにかベッドでうとうとと眠っていたらしい。
「……いま何時?」
「もう七時よ?生徒はおろか先生方もほとんど帰っていないわ」
その言葉を聞くや俺は、両手を奈美子の腰にまわすと、
まるで抱きつくようにその胸元へとそっと顔を埋めた。
「お疲れ様、奈美子……」
「こ、こらっ 池上先生でしょ!」
そう言ってあたりを見回しながらも、細い指が俺の髪を優しく撫でる。
薬臭漂う白衣の中は、大人の色気満載な黒いタイトスカート。
手を忍ばせ、形のいいおしりを撫でまわすと、
ビクンと微かに奈美子の腰が揺れるのがわかった。
「だ、だめよっ 誰かに見られたらどうするのっ」
「誰もいなくなったから…… 俺を起こしたんだろ?」
「そ、そんなことっ あっ んんっ」
「『気分はどう?』だなんて先生ぶっちゃって…… 大人は大変なんだな」
意地悪な俺の言葉に、すこし恥ずかしそうに唇を噛む奈美子。
赤い口紅、よく見ると指には赤いマニキュア、
なんだかんだいいながら、ここにはもう保健医の池上先生はいない。
「赤が好きなんだな? ……ひょっとして下着も?」
そう言って胸元を覗き込もうとする俺を、慌てた様子で引き離す奈美子。
「ば、ばかっ こんなとこで見せられるわけないでしょ……」
胸元を抑えながら、ほんのり頬を染めるその姿がかえって俺を欲情させる。
俺は立ち上がり、そっと奈美子の肩に手を置くと、
耳元で囁くようにこう呟いた。
「じゃぁ、どこでならいいのさ?」
小刻みに震えるように奈美子の身体がピクンと揺れる。
感じやすい大人の身体。
特に耳はどこよりも敏感なのを……俺だけが知っている。
「も、もう遅いから…… 私が家まで送ってあげるわ!」
そう言うや机の上にある車のキーを手に取ると、
背筋を伸ばし、ツカツカと駐車場に向かう奈美子。
あくまでもここでは池上先生を演じ通すつもりなんだろうが、
その勝ち気さが、いっそう俺の興奮を掻き立てるのを理解してないみたいだ。