黒い恋人-10
下着を履き、その姿のまま、いそいそと化粧をはじめる奈美子。
やっぱり赤じゃねぇか──なんてことを考えながら俺もまた服を着る。
十六歳の時、ちょっとした事故が原因で奈美子と出会い、
そのままずるずるとこんな関係が一年以上続いている。
もうすぐ俺は卒業だけれど、奈美子はそのままこの学校に残るのだろうか。
「なぁ、身体痛くなかったか?」
「なぁに突然?」
「いや、今日はちょっと無茶しすぎたかなって……」
ボリボリと頭を掻きながら、鏡に映った奈美子から視線をはずす。
「あは、相変わらず龍二は優しいね?」
「はぁ?な、なに言ってんだよっ」
「我が校きっての強面問題児がこんなに優しいだなんて、きっと誰も知らないんだろうなぁ」
そう言うと、なんだか少し嬉しそうな顔で笑う奈美子。
その笑顔を見てるといつもながら同じことを考えてしまう。
もしも同級生なら、いや、せめて奈美子が教師じゃなければ、
恋人同士とまではいかずとも、仲の良い友達くらいにはなれたのだろか──と。
「なぁ、写真撮っていいか?」
「……えぇ?だ、駄目よっ こんな恰好でっ こ、こらっ」
俺は有無を言わさず奈美子の肩に腕を回すと、
手を伸ばしゆっくりと携帯のシャッターボタンを押した。
白い素肌に赤い口紅をつけた女。
少し乱れた黒髪が情事の跡を物語っている。
「うん、なかなか色っぽいな」
「だ、誰にも見せちゃだめだからね?」
ブラウスのボタンを止めながら、何度もしつこく念を押す奈美子。
誰にも見せるわけなどない。誰に見せられるものでもないのだから。
けれど、まさかこの写真があんたの実の娘の目に入るだなんて、
俺はもちろん神様だって夢にも思わなかっただろうよ。