月経タイム 後編-1
海棠家の夕食時。
「あんたたち、なに神妙な顔してんの?二人そろって。」母親がサラダボウルを食卓に置いて座った。
ケンジはうつむいた顔を上げることなくスプーンを手に取った。
「何か悩みでもあんの?」
ケンジの隣に座ったマユミは黙ってスプーンですくったシチューを口に入れた。
しばらくしてケンジは決心したように顔を上げ、びくびくしながら口を開いた。「あ、あのさ、母さん、」
「なに?」
「お、俺たちを身ごもった時、ど、どんな気持ちだった?」
「なによ、いきなり。」
「い、いや、こないだ保健の授業でさ、妊娠と出産のこと習って、でも、俺、男だからいまいち実感わかないっていうか・・・。」
母親はちらりと父親を見た後ゆっくりと話し始めた。
「あんたたちを身ごもる前に、実は母さん、一度流産しちゃったの。」
「えっ?」マユミが思わず顔を上げた。
「もしその子が生まれていれば、あんたたちの二歳年上のお兄ちゃんになるはずだったわ。」
「し、知らなかった・・・・。」ケンジは再び目を伏せた。
「だから、あんたたちが二人してお腹の中で育っている、ってわかった時はお父さんといっしょに泣いて喜んだものよ。」
「そうだったんだ・・・・。」マユミが切なそうな目で父親を見た。父親は少し照れたような顔をして、サラダにドレッシングをかけていた。
それからケンジは黙り込んだまま、焦ったように食事を済ませた。そして無言で手を合わせて立ち上がり、食器をキッチンに運んだ。
母親はケンジの背中を見送った後、マユミに目を向けた。「何かあったの?」
「あ、あたしとケン兄、昨日話しててさ、双子を身ごもるって大変だろうね、っていう話題になったんだ。」
「大変じゃないと言えば嘘になるわね。でも、流産した後だったから、あたしもお父さんもすごく嬉しくて、あんたたちが生まれるのがとっても待ち遠しくて、楽しみだったのよ。」
「計画妊娠だったの?」
「あんた難しい言葉知ってるのね。」
「あ、あたしも一応学校で・・・習ったからね。」
「赤ちゃんができにくい身体だ、ってお医者さんからは言われてた。排卵を誘発する薬も飲んでたわ。でも、お父さんも、とっても頑張ってくれてたのよ。」母親はいたずらっぽくウィンクをした。
「ちゅ、中絶とか、したことないよね、ママ。」
「当たり前でしょ。あたしもお父さんも子どもがとっても欲しかったんだから。何?そういうことも学校で教えてもらったの?」
「ま、まあね。」
サラダを食べ終わった父親がいつになく真剣な顔で言った。「人工妊娠中絶は殺人だ。軽い気持ちで過ちを犯した男女による胎児の殺人なんだよ、マユミ。」