君をマジで殺したい-8
どれくらい時間が過ぎただろうか。
俺はアパートの向かいで煌々と光を放つ自販機の前に腰を下ろしていた。
自販機の光に羽蟻や小さい蛾が次々に集まってくる。
そいつ等を手で振り払いながら俺の部屋を見上げる。
部屋の電気が消えてしまったってのが、いらぬ妄想をかきたててしまい、俺は首をかきむしって叫びたい衝動をなんとかこらえていた。
なまじ芽衣子の乱れる姿をたくさん見てきただけに、妄想がやけにリアルに浮かんで来てしまう。
やり場のない嫉妬心や苛立ちを両足に込め、唸りながら地団駄を踏むと、虫共がブワッと驚いたように飛んでいった。
こいつらももしかしたら、前世は人間だったかもしれない。
未練がましく成仏しなかったがために、光に集まるだけのくだらない一生を送る羽目になったのかもしれない。
俺もいつまでも未練がましく成仏しなかったら、コイツ等みたくなってしまうのかな。
でも“蛾に生まれ変わって満足してんだよ!”っていう変わった感性の持ち主だっているかもしれないし、もちろん“こんなはずじゃなかった”と嘆いている奴だっているかもしれない。
当然ながら、俺にはこいつらの気持ちがわかるわけがないんだ。
人間には人間でしかはっきりと気持ちを伝えることができないのだから。
たとえば、次は犬に生まれ変わって芽衣子に会いに行ったとしても、好きという感情は、懐いたりすれば伝えられるかもしれないが、決して結ばれることはできない。
芽衣子と再び愛し合うためには、やっぱり人間に生まれ変わるしかないんだ。
よし、サッサと成仏しちまおう。
そんなことを考えていると、アパートの方から園田がスタスタと歩いてきた。
園田の鼻には、なぜかティッシュが丸めて詰め込まれていた。