君をマジで殺したい-2
電気の点いていない玄関に入ると、懐かしい匂いがした。
俺の煙草と、芽衣子の化粧品や香水の匂いが混ざった安らぐ匂いだ。
この匂いを嗅ぐと、家に帰ってきたんだという気になる。
いつもなら匂いのことなんて気にかけるわけがないのに、今日に限ってはそんな些細なことで感傷的になってしまう。
狭い玄関から足を踏み入れれば、すぐ右手に小さいキッチンがある。
玄関からでもキッチンのシンクの中が見える。
朝、二人で飲んだコーヒーのマグカップが洗われてないまま放置されていた。
左手には狭いユニットバス。
トイレと一緒だから、当然ながらシャワーしか浴びれなくて不満タラタラだったけど、長く住めばそれにももう慣れた。
それらを挟んだ短い通路の奥にあるドアを開ければ、愛しの芽衣子が俺を失った悲しみで泣きはらしているはずだ。
ドアのガラス越しから、煌々と明るい光が差し込んでいる。
急いで彼女の顔を見るため靴を脱ごうとした、その時だった。
見慣れない男物のスニーカーがデンと狭い玄関の真ん中に陣取っていたことに気付いて、思わず眉をしかめた。
誰だ、こんな時間に上がり込む無粋な奴は。
そう思って暗がりの中、目を凝らして大きなスニーカーを見やった。
ハッと息を呑む。
いや、見慣れないことはない。というかむしろ、見飽きたほどだ。
年季の入った薄汚れた白いスニーカー。
何度も俺が“そんなの捨てて、新しいの買えよ”ってバカにしてた。
このスニーカーの主は……。
俺は靴を脱ぐのも忘れ、勢いよくドアを通り抜けた。
そして目の前に広がった光景を認識すると、目と口を大きく開けて固まってしまった。
そこには両手で顔を覆い、激しく泣きじゃくる芽衣子と、彼女の肩を黙って優しく抱いている俺の友達、久留米圭介(くるめけいすけ)の姿があった。