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5日間の恋人
【悲恋 恋愛小説】

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5日間の恋人-1

 あたしは冬になると思い出す。彼のことを。
 雪が降ると会いたくなる。心が締め付けられるくらいに愛していた彼のことを。
 今はいない彼のことを。
 たった5日間の恋人だった冬哉のことを―。
 あたし、橘 伊吹。
 今はいない、かつて恋人だった冬哉のことを忘れられずに今も生きている。

 冬哉との出会いは冬、雪の降る日のことだった。あたしは当時付き合っていた春斗との待ち合わせに遅れそうで急いでいた。
 (やばーいっ!30分も遅刻だよ。春斗怒ってるだろうな。"春"なんて名前についてるけど、ちっともおだやかじゃないし、あったかくないんだから…。)
 あたしと春斗とは大学で知り合った。春斗から告白されて今まで付き合ってきたけど、最近うまくいってない。怒りっぽくてワガママな春斗と大学を卒業してからもなんとなく続いてきたけど、一緒にいても疲れるだけ。仕事先が別になって離れてからは束縛もひどい。
 (なんかめんどくさい。会いたくないな。仕事で遅れたってゆってもうるさいし。)
 そんなことを考えながら道路を渡ろうとしていたときだった。
 (危ないなぁ。雪降って滑りやすいのに、あんなスピード出して。)
 道路の向こうから猛スピードの車がやってきた。
 (信号は青だし、渡っても大丈夫だよね?あ、変わりそう。急がなきゃ。)
 歩行者用の信号が点滅し始め、小走りに横断歩道を渡ろうとしたとき、来るはずのない車が猛スピードで突っ込んできた。
 (!!ぶつかる!)
 そう思って目を閉じた瞬間、爆音と人々の悲鳴―。
 「きゃーっ!事故よ!」
 「人が引かれたぞっ!早く救急車を!」
 事故?引かれた?もしかしてあたし!?痛みも感じず、ただただ眩しい、真っ白な景色しかあたしには見えなかった。
 (春斗、待ち合わせに来ないってまた怒ってるかも。早く行かなきゃ。怒るとめんどくさいんだから…)
 なんて呑気なことを考えながら、あたしは意識を失った。
 それからどれくらい時間が過ぎたのか。あたしは何もない、真っ白い場所に倒れていた。
 (?何?どうなってんの?あたし、引かれたんじゃないの?ここどこ?)
 眩しいのをこらえながら目を開くと、次の瞬間、あたしは病室にいた。
 …しかもベッドに横たわる自分を見下ろして。
 (!?あたし?なんで自分を見てるの?しかも上から…浮いてるの?もしかして、あたし…死んだの??)
 人工呼吸器をつけられ、心電図モニターやら点滴やらあたしの体にはたくさんのチューブがつけられていた。青白い顔をした自分はどう見たって死んでいるか、今にも死にそうな状態か、そんな風にしか見えなかった。
 (嘘でしょ?じゃ今のあたしは幽霊ってこと?どうなってるの?)
 しばらくベッドに横たわる自分を呆然と見下ろしていたけど、ふと気配を感じて後ろを振り返った。そこには―。
 あたしと同じように宙に浮いている男がいた。
 (!!)
 驚きのあまり声も出せずにいると彼の方から口を開いた。
 「死んでないよ。君は死んでいない。安心して。怖がらないで。」
 彼は優しい口調で語りかけてきた。あたしは何から考えたらいいのか、何を話せばいいのか解らず、口をパクパクさせたまま、たっぷり2,3分声も出せずにいた。
 「あなたは…誰?」
 ようやく声が出た。
 予想外の質問がきたせいなのか彼は口元に優しい笑みを浮かべながら答えた。
 「俺は冬哉。君を助けたくて君の所に来たんだ。」
 「あたしを助けるってどういうこと?」
 「あぁ。ごめん。いきなりこんなこと話したってわからないよね。ちゃんと説明するよ。ちょっと場所変えるよ。」


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