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5日間の恋人
【悲恋 恋愛小説】

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5日間の恋人-9

 「じゃ、また明日ね。」
 そう言って、帰ろうとする冬哉の手を掴んだ。
 「伊吹?」
 「今日は最後の夜だよ?一緒にいようよ。」
 「え?」
 「ご飯作るよ。もっといろんな話して、一緒に寝よ?」
 あたしは笑顔で言った。冬哉を悲しませないように。冬哉に最後の思い出をプレゼントできるように。
 4日目の夜。あたしと冬哉はお互いを抱き締めながら眠った。

 5日目の朝。
 目を覚ますと横に寝ているはずの冬哉がいなかった。
 (うそ?なんでいないの?)
 ふとテーブルに置かれた紙が目についた。
 手に取ってみると、それは冬哉からの手紙だった。
「伊吹。昨日はありがとう。最後の夜を君の寝顔を見ながら一緒にいられたことをとても幸せに思うよ。お別れを言うとつらくなるからもう行きます。黙って行くことを許してね。伊吹。君と出会えて本当によかった。ありがとう。5日間、君の恋人として過ごすことができて幸せだった。もう何も思い残すことはない。どこにいても伊吹の幸せを願っています。―冬哉。」
 (冬哉、こんな手紙だけ置いて、行っちゃったの?もういないの?)
 (ううん。まだいる。冬哉はまだ消えてない。じゃ、どこに?どこにいるの?)
 あたしはある場所が頭に浮かび、そこへ急いだ。
 そこは病院だった。あたしが今も眠っている場所、そしてあたしと冬哉が初めて出会った場所。
 「冬哉、これどういうこと?」
 病室の宙に浮かびながらあたしの体を見下ろしている冬哉の後ろにそっと近づいた。そして手紙を突き付けながら言った。
 「え!?どうしてここが?」
 「わかるよ。…こんな手紙だけ置いてあたしと別れようとしてたわけ?」
 「…ごめん。でもこれ以上伊吹の悲しい顔、見たくなかったんだ。」
 あたしはふぅっとひとつ、溜め息をついた。
 「あたし、もう泣かないよ。笑って冬哉とお別れするって決めたから。―これから強く生きていくために。」
 「伊吹…。」
 冬哉の声が少し震えた。
 「これで思い残すことは何もないな。…もう行くよ。これ以上一緒にいると行きたくなくなっちゃうから。」
 そう言い終えると冬哉の体は少しずつ薄くなっていった。
 (泣かない。笑顔でさよならするって決めたから。)
 「冬哉、抱き締めてていい?最後までそばにいたい。」
 「うん。うん。ありがとう。伊吹、ほんとにありがとう…。」
 冬哉の体はどんどん、どんどん薄くなる。もうほとんど見えない。表情がかろうじてわかるくらい。
 「冬哉。冬哉。」
 あたしの目から涙が溢れてきた。
 冬哉は何か言ったようだったがもう聞こえなかった。あたしは冬哉を抱き締める腕に力をこめた。
 パリーンとガラスが砕けるような音がした。腕の中を見ると…冬哉の姿はなかった。代わりに優しく、暖かい光があたしの腕の中にあった。光は細かい、いくつものかけらになり、あたしの腕を擦り抜けて、きらきらと輝きながら、まるで雪のように病室に舞い降りた。そして、たくさんのかけらはあたしの体と、あたしの隣にいた、春斗の体に吸い込まれていった。最後の1つがあたしの体に吸い込まれたとき、冬哉の声が聞こえた気がした。
 「伊吹。大好きだよ。ありがとう。本当に大好きだよ。」
 あたしは声を聞きながら目を閉じた。

 次に目を開けると、白い天井が見えた。横には春斗がいた。
 あたしはまだ、口から挿管チューブをいれられ、人工呼吸器をつけられていたので声が出せずにいた。
 (春斗…。ずっとあたしのそばにいてくれたの?)
 「…伊吹?伊吹!お前、気が付いたのか!?ちょ、ちょっと待ってろよ。今、医者か看護師を呼んでくるからな!」


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