5日間の恋人-8
相変わらず青白い顔をしたあたしはベッドに横たわっていた。人工呼吸器やいろんな機械に囲まれ、たくさんのチューブをつけられたあたしはなんだか小さく見えた。
(これ外せば、あたしは死ぬはず。こうするしかない。冬哉と一緒にいるためには、自分の手で自分の命の火を消すしかないんだ。)
そう考えながら、人工呼吸器とあたしをつなぐ挿管チューブを抜こうと手をかけようとした。
「伊吹、それ抜いたら…どうなるかわかってるの?」
冬哉が後ろから声をかけた。
「なんで…、なんでここがわかったの?」
「わかるよ、伊吹のことは何でも。そんな悲しいことしないで。俺のために。」
(だって、だって冬哉…あたしは…。)
言葉の代わりに涙が溢れてきた。ぽろぽろと止められないくらいのたくさんの涙が。
「俺は伊吹にこんなことをさせたかったんじゃないんだ。もう全て話すよ。ほんとは言うつもりなかったんだけど、聞いて。」
冬哉はあたしの目を真っすぐ見ながら話し始めた。
「俺の全て―。俺は本当は伊吹たちと同じ世界に生まれてくるはずだった。…君の恋人の、春斗の双子の弟として。母親のお腹の中にいるころから俺と春斗はいろんな話をしてた。仲良しだったよ。もうすぐ臨月を迎えるころ、声が聞こえてきた。『お前たちはどちらか1人しか生きられない。2人で相談してどちらが生きるか、どちらが死ぬか決めるんだ。』って。もちろん、俺たちは譲り合った。お前が生きろって。答えはでなかった。本当は2人で生まれてきたかったから。どうしようか悩んでいたとき。俺はふと、生まれてくることよりも、なにか大切なことがある気がしたんだ。人として生まれてきたら出来ない、大切なことが。春斗は冬哉がそう言うなら俺が生きる。冬哉は自分の思う通りにすればいいって。そうして、俺たちは双子として生まれてこなかったんだ。」
「…冬哉の生まれてくるより大切なことって、なんだったの?」
「きっと、伊吹を生き返らせることだったんだと思うよ。あの日、伊吹が事故にあったとき、俺が伊吹を助けなきゃ、このために俺は人間として生きることよりも、今の自分の道を選んだんだって感じたんだ。」
(信じられない。春斗と冬哉が双子として生まれてくるはずだったなんて。冬哉はあたしのために…、あたしのために生きる道を捨てただなんて。そんな、ずっとずっと前からあたしを大切に思ってくれてたなんて…。)
あたしの目からはまた涙が溢れた。
「伊吹、泣かないで。俺が自分で選んだ道なんだから。全部わかってたことなんだよ?…1つだけ、俺にもわからなかったことは、君がこんなにすきになってくれるなんてってことかな。そのせいで、伊吹に悲しい思いをさせちゃったね。」
誤らないで。誤らないでよ、冬哉。あたし、冬哉に出会えて幸せだった。嬉しかったよ。短い間だったけど、冬哉の恋人になれて本当によかったよ。こんなに冬哉のことをすきになれて…。
冬哉に伝えたいことはたくさんあった。でも、あたしからは言葉ではなく涙しか出てこなかった。
「冬哉…。」
名前を口に出すだけで精一杯だった。
そんな気持ちを悟ったのか冬哉はあたしを抱き締めた。
「出会うはずのない、伊吹と出会えて、恋人と過ごせて俺は本当に幸せだったよ。ありがとう、伊吹。もう泣かないで?笑ってよ。俺は伊吹の笑った顔がすきなんだから。」
優しく笑う冬哉の顔を見て、あたしは涙を拭いた。
(もう、泣いちゃいけない。あと1日ある。まだ悲しむのは早い。)
「うん。もう泣かない。あたし、冬哉と笑ってお別れするわ。」
「伊吹、ありがとう。本当に本当にありがとう。」
あたしたちは手をつなぎながら家に帰ってきた。空にはもう星が出ていた。