5日間の恋人-7
4日目。
あたしは家に帰ってからも冬哉と交わしたキスを何度も思い出し、どきどきしながら眠れずにいた。
(やだ。もう朝になっちゃう。今日もまた冬哉に会うのに。どんな顔して会えばいいの?)
冬哉―心の中でその名前を呼ぶだけで頬がかぁっと熱くなるのがわかる。
(あたし…冬哉のことが…すき、なのかな?)
冬哉、冬哉、冬哉―。心の中で何度も繰り返した。もっと冬哉のことを知りたい。そう思っていたときだった。携帯が鳴った。あたしはワンコールで電話に出た。
「もしもし、冬哉!?」
「やっぱり起きてた?なんか伊吹が俺を呼んでる気がして…。」
どうして冬哉はこんなにあたしを理解してくれるのだろう?なんでこんなにタイミングがいいのだろう?あたしはなぜか切なくなって、涙が出そうになった。
「冬哉…。」
「伊吹、泣いてるの?どうした?」
優しい冬哉の声を聞いたら涙が溢れてきた。
「あたし、冬哉がすき…。もっと冬哉のこと知りたいよ。」
涙と一緒に気持ちも溢れてきた。
「ねぇ、伊吹。今からそっちへ行っていい?今日はどこにも行かないでゆっくり話そうよ。」
あたしはうん、と言って電話を切った。
15分後。冬哉がやってきた。あたしは冬哉の姿を見るなり抱きついた。
「伊吹?どうしたの?」
優しく抱き締めながらそう言った。
「わかんない。冬哉がすごくすきなの。すごく愛しいの。あたしこんな気持ち初めてだよ。もっと冬哉のこと知りたいの。」
あたしは気持ちを押さえられず一気にそう言った。
(こんなの初めて。こんなに自分の気持ちに素直になれるなんて。こんなに誰かをすきだと思うなんて。)
冬哉はしばらく何も言わずあたしを抱き締めていてくれた…。
「落ち着いた?」
「うん。ごめんなさい。恥ずかしい…。」
あたしはようやく落ち着き、コーヒーを飲みながら冬哉とソファに腰をおろした。
「伊吹、ありがとう。俺をすきって言ってくれて。俺も、伊吹のことがすきだよ。…ずっとすきだったんだ。聞いてもらえるかな、俺の話。俺と伊吹がどうして出会ったのかを。」
あたしは黙って頷いた。
「俺はこの世界をいつも見てたって話したよね。いつの頃からだろう。大勢の中から君をみつけたんだ。なんて綺麗な人なんだろうと思った。君のことを知ってからはずっとずっと君を見てた。君が幸せに暮らしているか、幸せな恋をしているか。遠くから見てるだけで俺は幸せだった。…例え出会うことがなかったとしても。伊吹を見守っていることが俺の幸せだったんだ。でも…。あの日、俺が降らせた雪のせいで君は事故にあった。俺の、俺のせいで。」
冬哉はぎゅっと唇を噛み締め、うつむいた。
「俺は君を死なせたくなかった。なんとしても君を生き返らせたかった。だから、あの日、君の前に現われたんだ。5日間、恋人になってくれたら生き返らせてあげるなんて、条件をつけて。」
「なんでそんな条件をつけたの?」
聞いてはいけない気がした。聞きたくないような答えが返ってくるような気がしたから。でも、なぜか聞かずにはいられなかった。
「…死んだ人間を生き返らせることは俺たちにとって、最も犯してはならない罪なんだ。」
「罪を犯したらどうなるの?」
聞いてしまったら、冬哉と別れなければいけない気がした。でも、勝手に言葉が出てきた。あたしの気持ちとは裏腹に。
「たぶん、俺は消える…。」
(!!!)
「なにそれ!?なんで?誰がそんなこと決めるのよっ!冬哉が消えちゃうなんて、冬哉と別れなきゃいけないなんて、あたし絶対にいやっ!だったら、だったらあたしこのまま死んでもいいっ!」
「伊吹。このまま死んでもいいなんてそんなこと言わないで。俺の幸せは君が幸せになることなんだ。死んだら幸せになんてなれないよ。」
「そんなこと誰が決めるの?あたしの幸せはあたしが決めることでしょう?」
あたしの目から、ぽろぽろと涙がこぼれていた。
「お願いだから…冬哉のそばにいさせて。出会って、たった5日間の恋人で、永遠にお別れなんて…。あたし、こんなに人を愛せたことないよ?冬哉が初めて。最初で最後だよ。あたしの幸せを望んでくれるなら…一緒にいさせて。お願い。」
あたしなりの精一杯の気持ちを伝えたつもりだった。
「ごめん。伊吹。ごめん。」
「わかった…。わかったよ、冬哉の気持ちは。」
「伊吹…。」
冬哉はほっとしたような表情を見せた。
あたしは帰るね、と一言だけ言い背を向け、ある決心をし、自分の体がある病院へ向かった。