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5日間の恋人
【悲恋 恋愛小説】

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5日間の恋人-6

 あたしと冬哉はお弁当を食べながらいろんな話をした。学生時代の話、子供の頃の話、冬哉の雪を降らせるという仕事の話とかいろいろ。冬哉の話はおもしろくて、とても楽しかった。
 でも。冬の海はとても寒くて、だんだんカタカタと震えてきた。
 「伊吹、寒いの?」
 「え?」
 自分から海に行きたいと言った手前、寒いなんて言えなかった。
 「寒いんだろ?震えてるよ?」
 冬哉はそう言うと、あたしの肩を引き寄せた。
 「くっつけばあったかいんじゃない?」
 (あ…。)
 冬哉の腕が、顔がさっきよりもずっと近くにある。
 (やだ…。なんでこんなにどきどきするの?こんなに近いんじゃ、冬哉に心臓の音、聞こえそう。)
 「ね?あったかいでしょ?」
 冬哉はまるで子供のように無邪気にそう言った。
 「う、うん。…あったかい。」
 ほんとだった。冬哉のそばにいると寒さなんて感じなかった。体だけじゃなくて、不思議だけど、心の中まであったかくなっていくような感じがした。
 「ねぇ、伊吹。さっき大学時代の話をしてくれたよね?今の彼氏とは告白されて付き合い始めたって。なんとなく今まで付き合ってきたって。伊吹は春斗のどこにひかれたの?」
 冬哉は、今までとは少し違う声のトーンでそう言った。
 (どこにひかれた?春斗の?)
 「え…。」
 今まで考えたことなかった。自分が春斗のどこにひかれたのか。どんなとこが好きだったのか。
 優しい所?―ううん。春斗はべつにあたしに優しくない。
 あたしを愛してくれる所?―春斗はあたしのことよりも自分のことを優先する。自分の思い通りにいかないとすぐに怒る。あたしを自分の思い通りにしようとする。
 でも…、冬哉は?冬哉はあたしのことを1番に考えてくれる。あたしがディズニーランドが好きだから連れていってくれる。寒いと感じたら暖めてくれる。あたしのお弁当を喜んで食べてくれる。
 名前に春がつく春斗は暖かくない。どちらかと言うと…冷たい。じゃ、冬哉は?‘冬’がつく冬哉は…とっても暖かい。まるで春斗とは逆のように春の日差しのように、穏やかで暖かかった。
 (やだ。あたし、なんで冬哉のこと考えてるの?)
 「ごめん。変なこと聞いて。困らせちゃったね。」
 「ううん。違うの。春斗と冬哉ってまったく逆だなって思って。」
 「そうなの?」
 「ねぇ、この話やめない?あたし、なんか冬哉の前で春斗の話するのやだ。」 なぜかはわからなかった。でも冬哉に聞かれたくなかった。知られたくなかった。
 「…俺も。自分から聞いたくせにって思うかもしれないけど、伊吹の恋人の話なんか聞きたくないよ。」 真剣な表情で冬哉は言った。
 あたしと冬哉は見つめあっていた。すぐ近くに冬哉の髪が、目が、鼻が、唇があった。
 「と…」
 冬哉、と名前を呼ぼうとした、あたしの唇を冬哉の唇が優しくふさいだ。
 (あ…。)
 あまくてあったかいキスだった。
 「冬哉…。」
 あたしはそのまま目を閉じた。波の音が遠くに聞こえていた。あたしと冬哉は何度も何度も、優しいキスをした―。
 あたしと冬哉の3日目が終わった。


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