5日間の恋人-10
あたしは目を覚ました後驚くことに1週間で退院することができた。
「先生も言ってたけど、ほんとに奇跡の回復だな。お前、助かる見込みは少ないって言われてたんだぜ?」
(知ってる。あたし、ほんとは死ぬはずだったんだもん。)
「もしかしたら、冬哉が助けてくれたのかもな。」
「え?とう…や…?」
「そう。俺の双子の弟。…生まれてくるはずだった…。生まれる前に母親のお腹の中で死んじゃったけどな。」
(春斗、知ってたんだ…。)
「あのさ、伊吹。もう少し、あったかくなったらさ…。」
あたしは春斗の口から冬哉の名前が出てきたことに驚きながら、冬哉との5日間を思い出していた。ほんのちょっと前のことなのに、もうずっと昔のことのようだった。
「ディズニーランドに行こうよ。お弁当持って、海にも行こう。伊吹の部屋で、伊吹の作ったご飯食べながら、朝までいろんな話とかしよう。」
(え?春斗?)
今までの春斗なら絶対に行きたがらないような場所ばかりだった。春斗からそんなことを言うなんて…と驚いた。
「どうしたの、いきなり。」
「俺、今までワガママばっか言ってたからな。伊吹の気持ち、考えてなかった。お前が事故にあって、お前の大切さに気付くなんて、情けないよな。」
(春斗、変わった?あっ!もしかして…、冬哉なの?)
冬哉と別れたあの日、光になった冬哉のかけらが、春斗にも吸い込まれていったことを思い出した。
冬哉。あなたはここにいるの?春斗の中に?
あたしの目から、一粒の涙がこぼれた。
「伊吹、どうした?なに泣いてんだ?まったく泣き虫だな、お前は。」
春斗は笑顔で言った。春斗のこんな笑顔は今まで見たことがなかった。まるで冬哉のような、少年のような笑顔だった。
(…あれ?あたし、春斗の前で泣いたことなんかあったっけ?泣き虫だなんて…。あたし、誰かの前で泣いたのは…、冬哉が初めてだったんじゃない?)
「あれ?伊吹の涙、初めて見たよな?でも前にも、よく見た気がするんだよな。」
―伊吹。俺はいつでも君を見守ってるよ。幸せになるんだよ―。
どこからか、冬哉の声が聞こえた気がした…。
ふと空を見上げると、ちらちらと雪が舞い降りてきていた。