十三-1
それからの春子の記憶はもうひどく曖昧なものだった。
すべてが終わった部屋に明るい太陽が差し込んで、微かに風の匂いが吹き込んでくる。
閉まっていたはずの戸が開け放たれていたのだ。
あらわれた少女は毛布にくるまれていて、付き添いの女性に肩を抱かれたながら畳に座る。
さらに数人の大人が室内になだれ込み、「九門和彦だな」と荒い口調で言う。
無言の父は大人たちに連れて行かれた。
毛布の少女が美智代だとわかると、二人して抱き合いながら涙を枯らした。
美智代はすでに、和彦によって犯されていた。手足には縛られた痕が生々しく残っている。
美智代は自力で拘束を解き、それでも警察に直接電話をする勇気がなくて、父親である善次に助けを求めたのだった。
一方、春子を追って家を出た紳一は、美智代と祭りに行くという春子の言葉から、桜園家を訪ねていた。
そこに美智代からの電話があったのだ。
自分と春子は九門和彦に監禁されている、という内容だった。
紳一は春子の元へ急ぎたかった。けれども気がかりなことがもう一つあった。
森咲つぐみのことである。
紳一の足は自宅へ向かっていた。
そしてそこに繁とつぐみの姿がないとわかると、その足で養鶏場を訪れた。
辛い選択だった。ほんとうなら春子を先に救うべきだと思ったが、つぐみに関しても嫌な予感がしていたのだ。
佐々木家は静まり返っていた。玄関には鍵がかかっていたので、紳一は裏口にまわった。
鍵は開いていた。
そうして上がり込んだ先で見た光景は、紳一の想像していたものだった。
力なくブラウスの袖に手を通すつぐみは、紳一が来たことにも気づかない様子で、その動作を止めようとはしない。
犯された痕跡が体のあちこちにまとわりついている。
どこを見るでもない目が痛々しかった。
彼女の傍らに佐々木繁がいた。蛙が仰向けになって気絶している、そんなふうに紳一には見えた。
紳一は何も言わずにつぐみの元へ駆け寄り、彼女の背骨を撫でるように抱きしめた。
ふと我に返ったつぐみは、ずっと我慢していた涙を溢れさせて、紳一の体に甘えた。
自分の淫らな姿が恨めしく思えた。