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a village
【二次創作 その他小説】

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H-9

「その想いを相手に伝えれば、人は動いてくれるだろう」
「えっ?」
「今の想いを文章に纏めれば、少なくとも手紙の“追伸”で書いた以上に、相手の心に訴えるだろう」
「お父さん……」
「そうでないと、片手間な加勢ではお前が困る事になるぞ」

 三朗も光太郎も、雛子がいい加減な気持ちで無い事位は解っている。が、それを他人にまで頼むとなると話は別だ。
 どれだけ必要としているのか“熱”が伝わらないと、人は動かない。

「先ずは、お前の想いの丈を全て文章に起こしてみろ。後で儂が添削して、清書させるから」
「分かったわ!」

 雛子は三朗に言われるまま、ちゃぶ台にノートを広げて、思い付く限りに書き綴って行く。
 三朗は暫く、その様子を眺めていたが長くなるとみるや、

「雛子」
「なあに?」
「父さん、長旅で疲れちまった。先に風呂に行って来るから」
「どうぞ。場所はあっちだから」

 先に寝る前の段取りを済ませる事とした。身体を綺麗にして湯船に浸かると、三朗の顔に自然と笑みが溢れた。

(いっちょまえの口を利くように成って……)

 意見を押し通そうとする所は未だ々青臭いが、考え方そのものに変な偏向は無い。後は経験が解決するだろう。

 身体を充分に解し終えた三朗が風呂から上がるのと、雛子がノートに書き終えたのは、ほぼ同時であった。

「じゃあ、後は俺が添削するから、お前は風呂に入ってろ」

 三朗はそう言うと、ノートを取り上げた。

「それじゃあ、お願いします!」

 それからは、ベテラン教師が新米教師を教育する様に、三朗が添削した文章を雛子が纏めると言う作業を何度か繰り返し、ようやく依頼状として仕上がった頃には、夜もかなり更けていた。



「お前、本当にそれで大丈夫なのか?」

 長かった一日も終え、眠りに就こうと支度する。座敷には三朗の為に布団が敷かれた。

「私は大丈夫。もう寒くないから、これだけで充分よ」

 茶の間の雛子は、毛布一枚のみ。幾ら梅雨時とは言え、山の朝は冷える。その辺りを三朗が訊くと、

「大丈夫よ。私より、父さんは明日も汽車とバスを乗り継ぐんだから、しっかり寝とかないと」

 そう言って譲らない。
 これ以上の議論は疲れるばかりであり、それよりは有難く娘の温情を受ける方が、気持ちよい朝を迎えられると言うものだ。

「じゃあ、遠慮なく寝かしてもらうよ」
「お休みなさい」

 裸電球のスイッチが切れた。暗闇となった中で三朗は、自分の耳が冴えて行くのを覚えた。
 風が渡り、木々の葉を擦り合わせる音。闇夜を生きる物たちが発する声。都会の喧騒な夜に慣れた三朗には、久しぶりに感じる田舎の夜は妙に騒がしい。


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