赤い唇<後編>-8
「龍二?どしたの?お〜い!もしも〜し?」
呆然とする俺の顔の前で、奈美子がパタパタと手を振っている。
母娘と関係を持ってしまっただけでも重くのし掛かっていたのに、
初体験の時点ですでに加奈が存在してたこと、
しかも不倫だったことを聞かされ、二の句が継げないどころか言葉が出ない。
「もうっ 何もしてくれないならこっちから襲っちゃうぞ?」
そう言うや奈美子は俺の首筋に唇をあて、胸元へと移動したかと思うと、
徐々に身体をさげながら、下半身へと顔を埋めはじめた。
細い手で俺の股間を撫で上げる奈美子。
赤い口紅、赤いマニキュア、肌だってあの頃と遜色なく思える。でも……
「むぅっ!なんで勃ってないのよっ 失礼な子ね!」
「む、無茶言うなよ…… どこまで俺を鬼畜にするつもりだっ」
あんな事実聞かされて勃起するほど俺は変態じゃない。
それに多分、あんな話聞かなかったとしても、
加奈の母親と知った時点で俺は、奈美子を抱くことなんて出来はしないのだ。
「ちぇ!つまんないの…… 見かけによらず繊細なんだから……」
そう言って頬を膨らませながら指先で俺の陰茎を軽く弾く奈美子。
悲しいかなその顔は、俺のよく知る加奈と瓜二つだ。
「はぁ…… 俺このままインポになっちゃうかもな」
「ちょ、まだ若いのになに言ってんのよっ」
「いや、だってなぁ…… なんかもう色々ありすぎて……」
「やめてよ!私はともかく…… 加奈を泣かせたら許さないわよ?」
まったくもって筋が通らない話だ。
何を言ってるのかわからない。
そもそもの原因は奈美子なのに、ここに来て母親面されても……
ああ、加奈の喋りベタはまちがいなく奈美子からの遺伝だな。
「なぁ?……もう無いよな?」
「うん?」
「いや、俺が知らない衝撃の事実はさ……」
「そうねぇ…… 今はまだ知らない方がいいことならあるけど?」
「や、やめろよっ マジでもう洒落にならないからっ」
俺は跳ね上がる鼓動を抑えながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「昔さぁ、龍二がどうしても3Pしたいって言い出したことあったよね?」
「……おいっ やめろっ」
「あの時、私が連れてきた男覚えてる?若いのにヒゲ生やしたおっさんで……」
「やめろやめろやめろやめろやめろっ!?」
俺はすっかり怯えた子供のように、耳を塞いでその場に身体を縮こまらせた。
ほら見ろ、これだから女は嫌いなんだ。