四-3
長い夜が明けた。先に起きたのは春子だ。
紳一を起こさぬように、そっと風呂場に入って朝湯を浴びる。
夕べのこと、お父さんは忘れないでいてくれるかしら。
寝床で自分の娘を抱いたことを──。
全身に水滴をしたたらせながら、春子はそんなことを思っていた。
しゃがんで股間を洗い流してみると、ぬめったお湯が排水口に吸い込まれていった。
体の中にまだ父がいるような気がして、幸福な痛みが胸を打っていた。
*
紳一が起き出してくる頃には、春子はセーラー服に着替えて朝食の支度をしていた。
「お父さん、おはよう」
「おはよう。夕べは眠れたか?」
「知らないから」
そう言ってむくれてみても、内心は幸せでいっぱいだった。
あくびをしながら新聞を読んでいる紳一につられて、春子もあくびをした。二人とも熟睡できなかったのだ。
「おはようさん。紳一くんは居るかね?」
まだ朝も早いというのに、大きな声が玄関先から聞こえてきた。
近所の犬が吠えないのは、よく知った人物だからである。
紳一が玄関の戸を開けると、バケツを提げた農作業服姿の男が立っていた。
「佐々木さん、おはようございます」
「やあ、紳一くん。今朝産まれたばっかりの卵さ」
ほおれ、と佐々木繁(ささきしげる)がバケツを傾けると、初々しい朝採れの鶏卵がぎっしりと入っていた。
「いつもすみません」
「かまわんよ。そんなことより、春ちゃんはどうしてる?」
繁は禿げかかった頭を撫でた。彼は小さな養鶏場の主人である。
間もなく紳一に呼ばれた春子が、足音をひそめて玄関まで出てきた。
「おじさん、おはようございます」
セーラー服姿の春子を見るなり、繁は目尻を下げてにやついた。
「春ちゃんはほんとうにべっぴんさんになったな。いくつになった?」
「十六です」
「そうかね。こんなにも器量よしじゃ、紳一くんも手放したくないだろう?」
「いやあ、そんなことは……」
紳一は照れ隠しで笑う。
「高校を卒業したら、うちの鶏舎を手伝ってくれんか?給料だって春ちゃんしだいで色をつけることもできるからな。まだ先の話だから、返事はいつでもいい」
「考えておきます。おじさんのところの卵を食べて、ここまで育ったようなものだから」
まったくその通りだと繁は思った。
卵のおかげで乳もふくらんだし、排卵をするようにもなったんだからな──。
繁は股間をそわそわさせていた。何から何まで母親の紫乃にそっくりだと思った。
そして、春子を犯してしまいたいと思っていたのだ。
腹の底にたまった性欲は、もはや五十過ぎのものとは思えないほど、ぎらぎらと煮えたぎっていた。
「朝早くからじゃましたね。それじゃあまた来るよ」
じゃあ、と手を振る深海親子を振り返りつつ、繁は畑に挟まれた農道を行く。
季節の変わり目の風が、春子のスカートを揺らしていた。