三-2
血の気の引いた表情で必死に春子を探しつづける紳一。
狭い町だというのに、春子の姿はどこにもない。
手芸屋の店主が、「春ちゃんなら見たよ。校長先生のところの美智代ちゃんを探していたみたいだけど」と言ったきり、その後の行方がわからない。
「春子にもしものことがあったら、僕は……」
悪いほうへ悪いほうへと考えてしまうのは自分の悪い癖だなと、なるべく冷静でいるようにつとめた。
どれだけ町中を走りまわっただろう。シャツはすでに汗でべったりと体にまとわりついて、日差しが紳一の体力を奪っていく。
地面で照り返す熱が、陽炎をつくってゆらゆらと揺れていた。
もう一度戻って確かめてみよう──。
家に戻る選択をした紳一は、誰よりも春子のことだけを思いながら家路を急いだ。
*
紳一は家に着くなり春子の学校に電話をかけた。
電話に出たのは森咲つぐみだった。
さっき彼女から告げられた言葉が一瞬だけ頭をよぎるが、今はそれどころではない。
「あれから連絡はありませんでしたか?」と紳一。
「そのことなんですけど」
つぐみは現時点でわかっていることを紳一に話した。
被害に遭った少女は、春子の学校の生徒だということ。
その生徒は春子でもなければ美智代でもないということ。
それを聞いて紳一の気持ちも少しは軽くなったが、春子の行方が心配で、ひどく喉が渇いた。
変質者がこの辺りをうろついているというのに、一体どこで何をしているのか。
そうしていたとき、庭先で自転車を停める音がした。
「ただいま」
春子の声だった。
「春子!」
紳一は愛する娘の名を叫び、駆け寄ってすぐさま抱きしめた。
春子は何が起こったのか理解できずにいた。
「お父さん。急にどうしたの?」
「無事なのか。怪我はないのか?」
「何ともないけど」
「そうか。それなら良かった」
紳一は眉を下げ、安堵の中でふたたび春子を抱きしめた。
春子はただ嬉しかった。こんなにも強く抱きしめられたのは初めてかもしれない。
今まで以上に紳一のことを男として意識したし、自分のことを女として意識した。
この幸せな時間がいつまでもつづけばいいと思った。
しかしこの直後、昼間の事件のことを紳一から聞かされた春子は、得体の知れない変質者がすぐ近くにいたことに、肌寒い恐怖をおぼえたのだった。