君と共に逝きたい-14
「ふーん、めんどくせえんだな」
「そうでもしないと死者の皆さん、現状が楽しくてなかなか成仏なさらないんですよ。
物には触れるけど、基本は私達の姿は人間には見えないですし、壁をすり抜けたりもできますから。
あっちこっち部屋をすり抜けて覗き……なんて考える人もたくさんいます」
「ほー……」
なるほど覗きはできるわけか、いいこと聞いた。
「言っときますが、覗きはかなりのマイナスになりますからね」
俺のよからぬことを企む顔を見て、園田が釘を刺してきたので、思わず肩を竦めた。
「でも、自分ん家に入るくらいなら問題ないだろ?」
「まあ、それは大丈夫ですが……。
でも思い出のある所に戻ったり、大事な人に会ったりすると、なかなか成仏する踏ん切りがつかなくなりますよ?
私としてはこのままこの世にお別れする方が賢明だと思いますがね」
園田はそう言うと、黒い鞄から先ほどの申請書を取り出して、再び俺に突きつけてきた。
だが、俺はそれをそっくりそのまま突っ返す。
「このままお別れの方が未練残るんだよ、俺は。
最後に芽衣子の顔見て“生まれ変わってもお前に会いに行くからな”って言ってやるんだ」
そして、まるでプロポーズでもしにいくようなテンションで、爽やかなつもりの笑顔を奴に向けた。
「あ、手島さんの声はもちろん生きてる人には聞こえないですからね。
それに生まれ変わったら、手島茂としての記憶なんてなくなるんだから、有野さんのとこに行くだけ無駄なんですよ」
しかし園田が冷ややかな顔で、そうやって水を差すもんだから、思わず俺は奴の薄くなった頭頂部をスパーンとはたいてしまった。