月経タイム 前編-3
その夜、マユミはケンジの部屋を訪ねた。
スウェット姿のケンジはいつもの笑顔でマユミを出迎えた。そしてドアを入ったところで彼はマユミの身体を抱きしめた。
マユミはちょっとだけ身体をこわばらせた。
「マユ、今夜は俺がコーヒー淹れて来てやるよ。」
「え?」マユミは顔を上げてケンジを見た。
「ここで待ってな。」ケンジはマユミを部屋に招き入れて、ベッドに座らせた後、ドアに向かった。
「あ、そうそう、」ケンジは立ち止まって振り向いた。「机の右の引き出しに、おまえの好きなメリーのチョコレートが入ってるから、食べてていいぞ。」
そして彼は階段を下りていった。
マユミはケンジに言われた通りに彼の机の引き出しを開けた。ケンジが自分のためにいつも買ってくれるメリーのチョコレート・アソートの箱が無造作にそこに入れられていた。
ふと机の上を見たマユミは、今日の夕方、公園で和代がケンジに渡していた封筒が、これも無造作に置いてあるのに気付いた。
マユミはそれを恐る恐る手に取った。心臓が速打ちを始めた。
封はすでに切られていた。彼女は息を止めて、その中に入っていた二つ折りのカードを取り出し、ゆっくりと広げた。
『お誕生日おめでとうございます。突然ですけど、よかったら、私と交際してください。私、ケンジさんが好きです。』
和代の文字は歳の割に大人びている、とマユミは思った。文の最後に小さなクマのイラストが描かれていた。
階段を上がってくる足音が聞こえてきたので、慌ててマユミはそれを封筒に戻し、チョコレートの箱を持ってベッドに戻った。
「あれ、食べてても良かったのに。」トレイを持ったケンジが、ドアを開けてマユミを見るなり言った。
「え?」マユミの手の箱はまだ包装紙に包まれたままだった。
「どうかしたのか?マユ。」
ケンジはトレイを床のカーペットに置いた。
「え?何が?」
「何か、ぼーっとしてるぞ、今日は。」
「な、何でもないよ。ケン兄、気にしないで。」
「そうか?」
ケンジは二つのカップにデキャンタからコーヒーを注いだ。
マユミの手からチョコレートの箱を取り上げて、ケンジは呆れたように妹の顔を見た。「どうした?おまえチョコレート大好物だろ?」
「う、うん・・・。」
ケンジはプラスチックの包みを破り始めた。
「ケン兄、」
「なんだ?」
ケンジは開けた箱をマユミの目の前に置いて、自分が先に一粒のチョコレートをつまみ上げた。
「遅れてるの・・・。」
「え?」ケンジの手が止まった。
「今月の生理・・・・まだ来ないの・・・・。」
ケンジの指先からチョコレートが落ちた。「な、何だって?!」
マユミはうつむいた。
「そ、それって・・・まさか・・・・。」ケンジは血の気の引いた顔をこわばらせた。
「予定より、もう五日も遅れてる・・・・。」