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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み6 〜桜、舞う〜-7

 一週間後。
「あ〜あ、とうとう三年生かぁ……」
 甘味処のテーブルに突っ伏し、気怠げに美弥は言った。
「瀬里奈、進路どうするの?」
 蜜豆に舌鼓を打っていた瀬里奈は、急な質問に目をぱちくりさせる。
「紘ちゃんとキャンパスライフを満喫するために、進学?」
 そう言ってから、美弥はしまったと内心で臍を噛んだ。
 どうしても昔の呼び方が抜け切らず、気を抜くと『高遠君』が『紘ちゃん』になってしまうのである。
「そうねぇ……」
 瀬里奈は美弥を慮り、台詞の前半が聞こえなかった振りをした。
「それも悪くないわね……それより美弥、あんたはどうするの?」
 美弥は目をぱちくりさせる。
「何を?」
「高崎君の事よ。これだけ長く付き合ってると、将来の事とか話してるんでしょ?」
 う、と美弥は詰まった。
「……プロポーズは、されてるのよね……」
 テーブルに突っ伏したまま、美弥は言う。
 それを聞いた瀬里奈は、目を見開いた。
 まさかそこまでイッているとは。
「いちおう許可さえあれば、法的には結婚もできるんだけどさ……龍之介、四月二日が誕生日だから」
「あっちのお母様が手強い……とか?」
 美弥の語尾の濁りに気が付いて、瀬里奈は問う。
 たはは、と美弥は眉を歪めた。
「うん、普通とはちょっと違う意味で手強い人よ」
 巴は龍之介が自分に触れるというその一点があるからいきなり認めてくれたと思うが、はてそれがなかったら自分にどういう感情を向けてくるのだろうと考えると……けっこう厳しいんじゃないだろうかと、美弥は考えている。
 たとえ初めて会った時、娘ができると大喜びしてくれていてもだ。
「ご両親二人ともね」
 そう付け加えると、瀬里奈は目を丸くする。
 帰ってきた竜臣が自分の事をじろじろと値踏みしていた視線にも、当然ながら美弥は気が付いていた。
 求めに応じてお別れのキスなんぞをしている時に見られてしまったのは失敗かも知れないと思ったが、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて何とやらという諺もあるし、龍之介がそれに関しては全く歯牙にもかけていないので、美弥も気にしない事にしている。
「んじゃ、あんたの方のご両親は?」
 さらに畳み掛けられ、美弥は低い声で唸った。
「お父さんがねぇ……龍之介の事、面白く思ってないから」
 娘を盗られるという感情的反発からか、直惟は龍之介の事を肯定的に見ていない。
「お母さんもね……龍之介の事をきちんと名前で呼んでるの、聞いた事ないし。呼ぶ時、いっつも『彼氏』だからさ」
 今の所、交際そのものに関しては表立った反対はされていないが……どちらの両親も、諸手をあげて賛成という訳ではないようだと、美弥は思う。
「お父さんってば、結婚相手に高望みしすぎねぇ。高崎君て、恵まれてる方だと思うけど」
 それは客観的に見て頷ける事実なので、美弥は素直に首を縦に振った。
「そう思うわ」
 百八十四まで伸びてようやく落ち着いた身長や、少年から青年へと脱皮して凛々しさと爽やかさを増した顔立ち。
 筋骨が発達していて引き締まった体型も崩れる事なく維持しているし、愛情たっぷりに接してくれる態度にも変わりはない。
 もしも龍之介と結ばれたら、精神的にも肉体的にもさぞかし幸せな生活が送れる事だろう。
 経済面はどうなのかまだ分からないが、それは自分も同じなのであれこれ言える立場にない。
「後は恐怖症さえ治ればね……言う事ないんだけどなぁ」
 美弥の呟きに、瀬里奈は吹き出した。
 自分もそうだが恋人を持つたいていの女の子は、たとえ表立って騒がなくても彼の浮気やら何やらに気を揉んでいると思われる。
 後天的に身に付いた体質によって龍之介はそんな心配が全くいらない訳だが、それが治らないのが美弥の不満なのだ。


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