赤い唇<前編>-1
「加奈?おまえお嬢様のクセに結構いろんなパンツ持ってるんだな?」
「……え?やだっ か、勝手にタンス開けないでくださいよっ!」
夏も終わりに近づくある日。
私ははじめて龍二さんを部屋に招待していた。
「なんだよ?だったら早くこっち来いよ?」
「だ、だって…… まだ心の準備がっ」
すっかりリビングでくつろいだ様子の龍二さん。
けれど私はと言うと、すぐ隣の部屋で二の足を踏んでいた。
紺襟に赤のネクタイが眩しい高校時代のセーラー服。
龍二さんに見つけられた瞬間から、なんだか嫌な予感はしたのだけれど……
「おい?いい加減にしないとこっちから見にいくぞ?」
「やっ わ、わかりましたからっ」
私は大きく深呼吸をすると、そっと右手でリビングのドアを開けた。
「おおっ!これはなかなか…… ちょっときつそうだけど見るからにお嬢様してるな?」
「ううっ つい二年前までは普通に着れていたはずなのに」
「胸がでかくなったんじゃないのか?」
「そ、それはっ……!」
あなたがいつも激しく揉むからですよ──なんて口が裂けても言えない。
私が制服を最後に着たのが二年前なら、龍二さんは十二年前。
つまり、龍二さんと私には、ちょうどひとまわりの歳の差がある。
他人から見ると友達?それとも歳の離れた兄妹?
いずれにしても恋人同士にはそうそう見てもらえないだろう。
いや、そもそも私たちは恋人はおろか友達でもない。
かと言って何も知らない赤の他人でもなし。
結局のところ、龍二さんの言う『黒の他人』が、いまのところ一番しっくりときてしまう。
(赤の他人の赤が強調の意味なら、黒はさしずめ人に言えないやましさを意味するのかな?)
なんとなくそんな事を考えながら龍二さんの隣へと座る。
やましい他人──つまりは後ろめたい相手。
随分と寂しい間柄のようにも思えるが、悲しいかな私にもそれ以上の言葉は思いつかない。
「どうしたんだ?浮かない顔して……」
「え?そんなことは…… んんっ」
そう言って顔を覗き込むも、いつの間にか私の胸元をまさぐっている龍二さん。
原型をとどめぬほどに握り締めるも痛みは全然なくて、
私の感じるポイントを的確なまでに何度も責めたてる龍二さんの手。
その無骨で大きな手は、見かけよりもずっと繊細に動く──私にとって魔法の手だ。