序章-9
「ちょ、ちょっと伝一郎」
乱れる息を押し殺し、寝衣の合わせ目に手を差し入れる。胸元の皮膚から放たれる熱と湿気が、指先に伝わって来た。伝一郎は我慢出来なくなり、遂に震える手で直に触れた。
(胸って、こんなに柔らかいんだ)
しっとりとして吸いつくように柔らかく、それでいて押し返すような弾力。掌を通じて伝わって来る乳房の感触は、少年の心を狂わせ、さらなる欲求へと駈り立てる。
伝一郎はとうとう胸元の合わせ目を引き開け、菊代の乳房を顕にした。
「な、何をするの!」
菊代は声を張り挙げた。いくらわが子とは言え、余りに度が過ぎた行いである。
しかし、一度火のついた情欲の焔は、その程度で消せるものでは無かった。
「母さまのおっぱいが、恋しくなったんだ」
伝一郎は、菊代の耳許でそう囁いて乳房に手を添えると、赤子の如く先端を口に含んだ。
「伝一郎……」
はだけた胸元に顔を埋めて乳房を吸うわが子の姿に、菊代は懐かしさよりも、憐憫さがこみ上げて来た。
(これで、この子の気持ちが晴れるのなら……)
唯々、慈愛の心でわが子に身を委ねるべく、身体の力を抜いた。
「ああ……母さま」
母親の乳首に吸いつき、その甘い体臭を鼻腔いっぱいに吸い込んだ時、少年の中にある情欲の焔は、更に激しさを増した。
伝一郎はしゃぶるように乳首を責め立て、母親の身体にのしかかる。
「ま、まって……」
菊代の顔に再び焦りが浮かび挙がる。赤子の様な振る舞いが何時の間にか覆い被さるような体勢を取り、乳房を強く掴んで来たのだ。
「な、何をするの!」
きつい吸い加減と拙い舌遣いによって、菊代の身体に、絶えて久しかった“甘い疼き”を駆け巡らせる。
「ああ……」
必死になって逃れようとするが、少年と言えども男の力には成す術も無い。すると、必死にもがく彼女の太腿あたりに、“熱く硬い物”をぐいぐい押し付けて来る。
(まさか、これは……)
この瞬間、菊代は、わが子が宿す“歪な感情”に初めて気付いた。
十ニ歳の少年が持った性的欲求──その向かった矛先が、母親である自分だという事に。
「辞めなさい!私たちは、母子なのよ」
必死の抵抗をする菊代。しかし、もがく程に裾が乱れて肌が顕になる。
結局、下腹部を残し、伝一郎は母親の肢体を暴いてしまった。