序章-7
「ああ!くっ」
脳裡に恥毛に覆われた母の秘裂を思い浮かべた瞬間、伝一郎は頭の中が真っ白になり、短く呻いて顔を歪めると、初めての射精を体験した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
下腹部の痺れるような感覚と共に、幾度となく亀頭の先から迸る白濁液を、伝一郎は不思議な目で見つめた。
「……な、何だ?これ」
初めての事に少年は、驚きを隠せ無い。指先に残った白い粘液は得体の知れない物に思え、更なる恐怖を煽った。
「ぼく、もしかして死んじゃうんじゃ……」
十ニ歳の心に、行為に対する罪悪感が涌き挙がる。
「こんなこと、母さまにも言えないし……」
どうすべきか分からず、悶々としている所に、厠の戸を叩く音が割って入った。
「伝一郎、大丈夫なの?」
風呂を終えた菊代が、心配して様子を伺いに来たのだ。
「だ、大丈夫だよ!母さま」
「本当に?」
「うん!もう出るから」
そう答えた伝一郎は、慌てて袴を整えて厠の戸を開けた。戸の先には、菊代が心配顔で立っていた。
「もう大丈夫なの?」
憂えた瞳が、真っ直ぐ少年を捉えていた。純粋な母の慈愛に触れ、伝一郎は後ろめたさに苛まれる。
「ふ、風呂に入るから……」
直ぐに、母親からの視線を避けてその場をやり過ごした。一瞬でも、妄想に身を委ねた事に対する罪悪感で、心が張り裂けそうだ。
遠ざかる息子の姿は菊代の心に、不安という波紋を広げた。“素直で明るい子”が見せた不可解な行動は、初めて見せる物だった。
「ああ……また……」
一方、風呂場に向かった伝一郎は焦れていた。
陰茎が再び意志に反して腫れ挙がり、更なる快感を求めている事に戸惑いを覚えた。
(駄目なのに……また母さまの……)
行為に対する、嫌悪と覚えたての悦びへの欲求が、心の中で葛藤し、歪な答えを導き出す。
「はぁ、はぁ……」
伝一郎は再び、菊代の裸を思い浮かべながら自慰に耽った。