序章-4
一途からなる物狂しい程の責めは、菊代の理性を少しずつ剥ぎ落とし、変わって貪欲に快楽を求める愛欲の獣が、剥き出しになって全身を支配した。
菊代は、情欲に身を委ねながらも自らの口を手で塞ぎ、必死になって声を殺す──色獣と化した自分を、子供逹に知られない為に。
「ああ……き、菊代……」
呻くような声とともに、男の腰が急激に動きを速める。こみ上げて来る快感が男を頂上へと導き、蜜壺を抉る剛直の動きが激しさを増して行った。
「ひんっ、んっ、うんっ……」
菊代は昇りつめる快感に堪え切れず、淫猥な声ですすり泣く。愛しい男にしがみつき、夢中になって身を絡ませた。
「き、菊代……ああ!」
肉襞が剛直に絡みつき、強く締めつけた途端、男はあっけなく果ててしまった。菊代への深い情念をぶつけるように、幾度となく迸る精液を膣内に放出した。
「んんっ……で、伝一郎」
菊代は、昇りつめる絶頂感に身を強張らせながら、“愛しい男”の名を呼んだ。
「ハァ、ハァ……菊代」
「伝一郎……うん……」
余韻の中で口唇を重ね合わせる菊代と伝一郎。
わが子の熱い精液を自らの膣内で受け止めた後、菊代は決まって、強い罪悪感に苛まれる。
かつて、唯一愛した男。その男との子であり、面影を色濃く残す伝一郎子の抱擁は、彼女の“女”である部分を呼び覚まして抗う心を失わせた。
母と子が、この許されざる行為に及んだのは六年前、菊代ニ十八歳、伝一郎十ニ歳の時だ。
伝衛門が、菊代と伝一郎の下に足繁く通ったのはニ年間だけだったが、近所の者がどの様な関係かを知るには、充分過ぎる時間だった。
幼い母と赤ん坊が、大きな一軒家で悠々自適とも採れる生活をしており、時折、年輩の男が訪ねて来れば、導き出される結論は幾らも無い。
大人の噂は、やがて尾ひれを伴って子供逹の知る事となり、伝一郎は小学生に上がると同時に、虐めの標的とされた。
「母さま!」
ある日。伝一郎が、小学校を抜け出して帰って来た。その瞳には涙を溜めていた。
「どうしたのです?伝一郎」
初めて見るわが子の悔しそうな顔。驚いた菊代は理由を訊ねた。すると、伝一郎は悲痛な叫びを挙げた。
「母さま、僕って妾の子なの?」
「だ、誰が……そんなことを」
「学校の級友逹。みんなが、そう言って囃し立てるんだ」
聞いた菊代は、動揺以上に悲しみがこみ上げた。年端もいかぬ子供は平気で人を傷つける。傷つけた相手が、どんな思いになろうが関しない──幼さが故の残酷さ。
「ねえ、母さま、妾の子って何なの?どうして僕には父さまがいないの?」
「伝一郎……」
菊代は、伝一郎を抱き寄せて静かに泣いた。わが子がいくら疑問を持とうと、本当の理由を教えるわけにはいかなかった。