序章-3
伝一郎が生まれて一年ほど経ったある日、菊代は隙を見て実家を飛び出し、その足で伝衛門の屋敷へと向かった。
わが子を、父親である伝衛門に一目、見てもらいたくて。
しかし、必死の思いで屋敷にたどり着いた菊代は、驚愕の事実を知る事となる。伝衛門には既に、貴子という子爵の令嬢を妻として迎え入れており、今さら、菊代と伝一郎が入り込む余地など残されていなかった。
そんな菊代への憐れみか自身への贖罪か、伝衛門は、親子の為に屋敷からかなり離れた土地に一軒家を買い与え、「おまえたち親子の面倒は一生みる」と約束した。
菊代に傷心で落ち込んでいる暇はなかった。乳飲み子を抱えて実家を飛び出し、行く当てさえない彼女に、与えられた家に住んで妾となる以外、選択肢は残されてはいなかった。
移り住むと伝衛門は、わが子可愛さも手伝って、菊代の下に足繁く通うようになった。
だが、それも貴子が子を産むまでの二年の間だけで、それまでは二日とおかずに現れていたのが、以降はぱったりと姿を見せなくなった。
以来、菊代と伝一郎は、誰一人として身寄りのない彼地で生きる事となった。
時に菊代十九歳、伝一郎三歳の年であった。
「菊代……」
千代子と幸一が眠る傍で、欲望に餓えた男の声がした。
「だめ……子供逹が……」
男の手は、千代子の隣に添い寝する菊代の拒みを無視し、寝衣の裾を割って中へと滑り込ませた。内腿を撫であげ、恥毛をなぞり、指先が最も敏感な部分を強引に挿し入る──既に、中は熱くたぎっていた。
「もう我慢できない。ずっと菊代と離れていたから……」
「ああ……やめて……」
男は、菊代の手を取って自らの陰茎を握らせた。既に剛直と化した感触が、菊代の掌に伝わる。
ぎらぎらとした男の欲情が、女の口唇を貪り付く。菊代は熱い接吻を受け入れながら、憐憫な想いを男に向けていた。
「もう、我慢できないよ」
男が、息を荒げて菊代の身体へとのし掛かった。襟の合わせ目を乱暴に開き、面前にこぼれ出た豊かな乳房に吸い付いた。
「くっ……うん……」
疼くような感覚が、菊代の身体を駆け抜ける。久々に感じた甘美さは彼女の心を誘惑し、“抗い”の心を殺いで行く。
「こんなにして……菊代も、その気だったんだね」
「ち、違う……」
男の指が菊代の敏感な部分を責めたてる度に、蜜が淫靡な音を立てて溢れる。
心は、行いを激しく否定するが、身体は男の愛撫によって熱を発し、更なる悦びを欲しがる──彼女の真意は何処なのか。
「いくよ……」
男は、愛撫の時間さえ惜しいのか、陰茎で熱くたぎった蜜壺を一気に貫いた。
「うっん!……」
強引な挿入で、菊代の顔が僅かに歪んだ。肉襞の粘膜を異物である男の剛直で刺激され、快感が身体を衝き抜ける。
「ああ……やっぱり菊代の膣内(なか)は最高だ。僕のを、握っているように締めつける……」
「いやあ……んっ、うんっ」