序章-21
「……っくう!」
表情に苦痛も戸惑いもない。膣内はすでに蜜に溢れ、異物である陰茎に悦びの声を挙げた。
煮えたぎる血が全身を鋭敏にさせ、触れる事さえ感じ入ってしまう。思考も儘ならず、唯、鋭意に腰を振るばかりであった。
「……あっ!……っんあ!……」
仮初めの夜から五ヶ月が過ぎた翌年の二月下旬。菊代と伝一郎の情交は未だ続いていた。
その夜かぎりとした約束事など、情欲の前では、何の意味も成さ無かった。
「もっと!……ああん!……」
「はぁ!はぁ!……っぐ!……」
最初の情交から三日後の夜、伝一郎は再び菊代の枕元に立った。一糸纏わぬ姿で、はち切れん程に陰茎を勃起させて。
「ぐっ!……で、出るよ!」
「……っん!……かけて!……」
菊代は約束を持ち出して拒もうとした。が、すでに獣と化したわが子の暴走は止まらない。力ずくで母親に迫りかかって来た。
わが子に無理矢理剥かれて肌を晒した時、菊代は心の根底で、こうなる事を待ち望んでいた自分を知った。
「があっ!……ああっ!……」
「はああっ!……んあっ!……」
一度外れた箍(タガ)は元に戻せ無い。伝一郎の強い執着は堰を切って激流となり、母親の身体を奪い尽くす。
長らく、菊代の身体の奥で潜めていた情欲の焔は、背徳という状況を与えられ、更なる大火となって燃え上がる。
「……もっと……もっとしたい……」
「ぼくも……母さまとなら、幾らでも出来る……」
なし崩しとなった肉体関係は愛欲の限りを尽くして行く。もはや、二人の間に母子という概念は何処かに追いやられてしまった。
「また降って来た!」
降り出した小糠雨が、色付き出した早春の景色をけぶらせる。学校を終えて、伝一郎は下足場から恨めしげに天を仰いだ。
次々と雨の中に飛び出す級友逹。登校時は降って無かったので、高を括った連中なのだろう。
伝一郎は母親の薦めで傘は持って来たのだが、下駄に履き替えるのを忘れていた。
「あ〜あ、草履を濡らすと、また母さまに叱られるからな……」
悔やんでいる間にも、他の生徒は次々と帰って行く。
(諦めて帰ろうか)
そう思って下足場の方へ目をやった。すると、もう一方の出入口の所に三神晶子が立っていた。伝一郎と同様、恨めしげに空を眺めている。
「三神さん!」
伝一郎は晶子に駆け寄った。
「た、田沢……」
晶子は、近付いて来るのが伝一郎だと判ると、頬を赤らめ俯いてしまった。