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夕日
【初恋 恋愛小説】

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夕日-1

 秋。実りの秋。夕日が差し込む教室に居残り勉強をする人影。まだ数人が残っている。時がたつにつれ、ひとり、またひとりと鞄を持って教室から抜けていく。オレンジ色の太陽光は少しずつ床を染めていく。俺のノートは、着実に埋まっていく。
 結局最後に教室をぬけた俺は、誰もいない廊下を黙々と歩く。靴音が大きく反響する。職員室の向かい側にある階段を降り始めると、踊り場に人影を見つけた。後ろ姿ではあったが、一目で分かるあの長い髪は、あいつでしかない。自然と心音が大きく、速くなる。恋とは、なんと自然なものなのだろう。意思より先に心が動く。
「よう!」脳を無視して、口が勝手に声をかける。
彼女はゆっくり振り返る。俺は、すぐに後悔する。なにを話せばいいんだろう。
「どうしたの?こんな時間に」
困っていた俺より先に彼女は言った。
「居残り。そっちは?」
一言一言をかっこつけたくなる。
「私?私はちょっと先生に用があって。」
彼女はそう言うと髪をかきあげる。大きな窓から差し込む光が、彼女の髪までもきれいに染めあげる。ひとつひとつの動作が、俺の目に焼き付く。
「あの、さ。」俺は自分の中に秘めるこの気持ちを、打ち明けたかった。
「ん、なに?」
「あのさ、実は俺、」大きく息を吸う。「実は」だが、次の言葉は出て来ない。「いや、なんでもない。」
「そう、」
彼女は短く言った。「じゃあね。」
「うん。じゃあね。」
俺はうつむいていた。窓から差し込む光は、僕の背中にも、降り注いでいた。


後日、彼女は俺の知らないある奴と付き合い始めた、と広く友人に噂が流れた。同時に一部では、彼女は俺のことが好きだった、とも、噂が流れた。流した奴は誰だか知らないが、俺や彼女の生活になんら変化を加えず、噂は夕日にのまれて、すぐに消えた。


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