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映画を見て、家に帰る途中公園に寄った。
そんなときも、依田幸祐が気になって仕方なかった。
「依田幸祐かぁ。」
あの声がきれいだった。懐かしくなるような、優しい声。
「もう一回聞きたいな。あの声。」
「こんな暗いところで、一人でブランコ乗ってるなんて、振られた女みたいだな。」
聞き覚えのある声がした。懐かしい声。
驚いて振り返ると、そこには栗色で短い髪のきれいな顔立ちをした男が立っていた。
「よ…依田幸祐…?」
「俺の名前知ってんのか。怖ぇな。優輝って。」
「怖いって。てかなんで私の名前知ってるの?!」
「秘密。」
「はっ?」
「だから、秘密。教えない。」
ククッっと笑いながら彼は
「もう帰ったほうがいいぞ。7月だからって暗いのは暗いんだからな。」
「あ、う…うん。」
「じゃあなー。また紙くれよー。」
幼い声を出す彼に少しドキドキした。
そんな自分が分からなくて、歩く速度を速めた。
「なんであんな優しい声出すんだろ…。」
そしてその日は彼のことをずっと考えていた。
栗色の短い髪をきれいにセットして、少しつりあがった眉毛、きりっとした目に、きれいな鼻筋、小さい唇。外見は、皆が言うイケメンだが、少し怖そうな感じだった。
だけど、優しい無邪気な声。顔を崩して笑い、なぜか温かい、ほわほわした雰囲気を持つ彼が、不思議仕方なかった。
私は、いつの間にか眠っていた。